TBSは2007年7月1日に,自社グループのデジタルメディア事業を強化するための新たな取り組みを開始した。子会社で三井物産との共同出資会社である「TMモバイル」を事業会社化し,社名を「TBSディグネット」に変更するとともに,TBSと三井物産が同社への増資を実施した。これによりTBSディグネットの資本金は,7000万円から4億9800万円に増えた。同社は今後,TBSのデジタルメディア戦略の中核子会社として,放送・通信連携事業を推進する。その一環として2007年度中にも,パソコン向けの動画共有サイトを開設する計画だ。今回の増資で得た資金などを元手にして,新事業に挑む。動画共有サイトの開設後,TBSの系列ネットワーク「JNN」の加盟局などの地方局と協力して,コンテンツの拡充に取り組む方針である。既に数社の地方局が,独自番組などのコンテンツの供給に前向きな姿勢を示しているという。

 地方局はTBSディグネットの動画共有サイトを利用することにより,自社サイトを構築せずに,独自番組を全国規模で配信できるようになる。TBSディグネットは動画共有サイトに有料でコンテンツを配信する機能や,地域限定でコンテンツを配信する機能を搭載することを視野に入れているようだ。地方局はコンテンツの視聴料や広告収入の一部などを受け取ることで,新たな収益を確保できるようになる。日本の放送制度では,放送事業者は放送免許で定められた放送エリア以外で番組を放送できない。このため質の高い独自番組を制作しても,全国の視聴者にその番組を提供するのは難しかった。TBSの動画共有サイトを利用することにより地方局は,全国の視聴者への配信を前提にした番組の制作に乗り出せるようになる。

 既に米YouTubeなど多くの企業が動画共有サイトを運営しており,一部の放送事業者は自社の番組を投稿している。例えばCSデジタル放送などのプラットフォーム事業者であるスカイパーフェクト・コミュニケーションズは「YouTube日本語版」にパートナーページを開設し,Jリーグの中継番組のハイライト映像などを配信している。このように既存の動画共有サイトを積極的に活用し,自社の番組をアピールしようという動きが広がっている。

 これに対してTBSは,既存の動画共有サイトの運営事業者に頼らずに,子会社を通じて動画共有サイトを運営することにした。動画投稿サイトで独自番組を公開すると,自社のチャンネルの視聴者が減少する恐れがある。それならば子会社を通じて動画共有サイトを開設し,放送と競合しない形で自社や地方局のコンテンツを配信し,放送とインターネットの連携を進めた方がよい。放送事業者の子会社が運営する動画共有サイトであれば,地方局からコンテンツの供給を受けやすいというメリットも期待できる――。TBSが子会社を通じて動画共有サイトの運営に乗り出す背景には,このような判断があるようだ。