IE7の配布が始まったのは2006年11月のこと。それから半年。企業のシステム担当者は自社で管理しているWebアプリケーションのIE7対応を真剣に考えなければならない局面を迎えようとしている。

 これまでも,ブラウザのバージョンが変わるごとにシステム管理者はWebアプリケーションの修正を余儀なくされてきた。ブラウザごとにWebアプリケーションの表示や挙動の特性が違ってしまうからだ。ユーザーを戸惑わせるばかりか,場合によってはWebアプリケーションが動かなくなることがある。IE7も例外ではない。むしろ,IE6の登場から5年を経たリリースだけに,変更点はいっそう多く,対応は必ずしも容易ではない。富士通の「Vista・IE7対応室」(社内対応),「Vista・IE7対策室」(顧客向け)のように,ベンダーが一時的にIE7対応の専任部隊を設ける例さえある。

 現状では,ユーザーが自らダウンロードしてインストールするか,Windows Vistaを購入しない限りユーザーがIE7を利用することはない。実際,Webサイトのアクセス状況を見てもIE7のユーザー数は少ない。例えば松井証券では「全体のアクセス数のうち8~9割がIE6で,IE7は1割以下」(マーケティング部WEB企画担当の窪田朋一郎課長)でしかない。

 しかし,その状況が変わろうとしている。米マイクロソフトが近く,「Microsoft Update」を介してIE6をIE7に自動更新しようとしているからだ(当初は2007年6月末までに開始する予定だったがスケジュールが遅れている)。一般ユーザーの間では,IE7が多数を占めるようになる。ECサイトなどインターネット上に公開しているWebサイトは,ユーザーの使い勝手が悪くなってしまうことだけは避けたいところ。早急にIE7対応を考える必要が出てくる。Windows Vistaを企業クライアントとして使うことになれば,企業内のWebシステムについても,IE7への対応は必須だ。

UIとセキュリティが強化された

 IE6と比較し,IE7は機能面で優れる。強化点は三つある(図1)。まずは使い勝手。一つのウインドウで複数のWebページを表示できるタブ・ブラウジング機能を実装するとともに,検索窓をアドレス・バーの隣に配置するなど大きくユーザー・インタフェースを変えた。Webページを拡大・縮小できる新機能も搭載した。印刷では,用紙のサイズに合わせて印刷イメージのサイズを調整する機能が搭載され,横幅の広いWebページだと全体が印刷されないという問題を解消。また,ニュースやコンテンツの更新情報を収集するRSSを標準で搭載した。

図1●Internet Explorer 7の新機能と移行時の考慮点
図1●Internet Explorer 7の新機能と移行時の考慮点

 セキュリティ機能の強化も目玉だ。例えば,既知の詐欺サイトや詐欺サイトの可能性のあるサイトを警告するフィッシング詐欺検出機能を標準搭載した。危険な状態を色や警告画面によって視覚的に知らせることでユーザーに気付きを与える。さらに,OSがWindows Vistaの場合は,OSと連携することでIE7経由で悪意あるソフトウエアが組み込まれることを防ぐセキュリティ機構が導入されている。

 ユーザーには見えにくいが,レイアウトを指定するための言語であるCSS,Webページに動きを与えるJavaScriptに関してW3Cの標準仕様への対応を積極的に進めた点も大きな変化だ。Webアプリケーション開発者が,わざわざIE向けにJavaScriptやCSSを書かなくても,FirefoxやOpera,SafariなどのWebブラウザとHTMLファイルを共用できるようになった。

きちんと動くと期待してはいけない

 こうした変化には,企業のシステム担当者やユーザーにとって良い面と悪い面がある。

 Webグループウエア「desknet's」を開発・販売しているネオジャパンの齋藤晶議社長は「IEにRSSリーダーが搭載されたことで,これを前提にしたアプリケーションを提供できるようになる。また,印刷の大きさが自動的に調整されるようになることで画面を神経質に作り込まなくても良くなる」と期待を寄せる。

 セールスフォース・ドットコム製品統括本部の内田仁史本部長も「IEがW3C標準に近付くほど,Webブラウザの差異を気にすることが減り,開発は確実に楽になる」と歓迎する。このほか,富士通Vista・IE7対策室の市川和芳室長は「セキュリティの強化が図れることにIE7の価値を見出す企業もある」と分析する。

 悪い面は,IE7への変更でWebアプリケーションの動作に不具合が出る可能性があることだ。特にActiveXを使ったページは,全く動かなくなる可能性すらある。クリティカルではないが,IE6用Webページのレイアウトが崩れるなどの現象も起こる。多くの場合,設定変更や若干の改修で対処可能だが手間とコストがかかる。Windowsシステムの動作に詳しいNTTデータ基盤システム事業本部システム方式技術ビジネスユニットの高橋基信課長は「IE6用に構築したWebアプリケーションが,IE7でも問題なく動くと期待してはいけない」と警告する。

公開サーバーは迅速,社内はじっくり対応

 では企業のシステム担当者はWebアプリケーションのIE7対応をどのように進めればいいだろうか。この場合,社外に公開しているサーバーと,社員や関連会社のみに公開している社内向けサーバーとで対応は分かれる(図2)。

図2●企業システムでのIE7対応のスケジュール
図2●企業システムでのIE7対応のスケジュール
社外に公開しているWebサーバーはIE7の自動更新が始まる時期,社内向けのWebサーバーは自社の端末環境をIE7に切り替えるタイミングまでにIE7に対応させなければならない。日本でのIE7の自動更新は,当初は2007年6月末までに開始する予定だったがスケジュールが遅れている。

 まず公開Webサーバーに関しては,IE7への自動更新日が迫っていることから,早急に対策するしかない。これに対して企業内のWebサーバーは,「様子を見ながらじっくり」という方針で臨むのがいいだろう。多くの企業ではWindowsの自動更新機能を使わず,Windows Server Update Services(WSUS)やSystems Management Server(SMS)などを使ってクライアントにソフトウエアを配布している。このため,システム担当者がクライアントに配布するプログラムを取捨選択できる。IE6を社内の標準ブラウザとして使い続ければ,急いでWebアプリケーションをIE7に対応させる必要はない。

 ただし,OSのサポート切れを考えれば,いずれIE7対応を迫られるのは必至である。IE6のセキュリティ・パッチの提供はWindows XPのサポート期限となる2014年までは続くため,あわてて移行する必要はないが,クライアントOSのVista移行計画をにらみながら対策の実施計画を練る必要がある。

 中には,Windows Vistaへの移行を視野に入れてクライアントOSにWindows 2000を使い続けている企業もある。この場合,Windows 2000のサポート終了は2010年なので,3年以内に移行を完了しなければならない。

 では,WebアプリケーションをIE7に対応させるとして,具体的に何をする必要があるのか。IE7に未対応のWebアプリケーションにアクセスした場合に起こる典型的な不具合とその対策を,アプリケーションの動作トラブルと表示の不具合に分けて紹介していこう。