このところマスメディアをにぎわせたIT(情報技術)に絡む話題として、読者の皆様は何を思い浮かべるだろうか。何と言っても、一大政治案件になっている年金問題であろう。では1年半は何だったか。2006年3月10日、日経ビジネスExpress(現・日経ビジネスオンライン)に公開した「民主党はなぜメールを信じ、人々はなぜコンピューターを信じるのか」を再掲する。

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 このところマスメディアをにぎわせたIT(情報技術)に絡む話題として、読者の皆様は何を思い浮かべるだろうか。国会の電子メール問題、あるいはファイル転送ソフトによる情報漏洩あたりではなかろうか。

 国会の電子メール問題は、ITの問題とは言えないかもしれない。しかし筆者は、電子メールというITに対する、妙な信頼感を民主党の国会議員が持っておられたのではないかと考えている。

「電子メール」の“危険”に無自覚だったのは

 別段、永田町の事情に詳しいわけではないが、恐らく怪文書とか偽手紙の類などは、四六時中飛び交っている所ではないだろうか。国会議員の先生なら普通、怪文書なんぞに関わらない、あるいは、ガセネタかどうかある程度の判断はできる、はずである。

 ところが今回は、党首まで巻き込み、電子メールが証拠であるかのように言及してしまった。問題として取り上げた議員と党首、彼らの秘書、あるいは党のスタッフ、誰でもいいが、「電子メールなんか危なくて証拠なんかにとても使えませんよ」と忠告する人はいなかったのだろうか。公開された内容の電子メールであれば、誰でも簡単に作れる。またコンピューター上の文書は簡単に改ざんできてしまう。ひょっとすると、あのメールは本物だったのかもしれない。しかしそれを証明することは極めて難しい。

 もちろん、不正が横行しては困るので、コンピューター上の文書記録を守る技術がいろいろと準備されている。例えば、社内のコンピューターの操作履歴を自動的に記録する仕組みがある。ある文書に関する操作履歴を確認できるので、「勤務時間外の深夜にこの文書を印刷した人がいる」といったことが分かる。また特定の文書について、閲覧あるいは修正できる人を限定してしまうことも可能である。

 コンピューターの出現によって、文書の取り扱い方法は大きく変わった。非常に便利になったことは事実だが、いいことばかりではない。不正防止のために、コンピューターをさらに駆使しなければならなくなった。

 一方、ファイル転送ソフトによる情報漏洩の問題は、専門家、というかコンピューター利用者の間でかねて指摘されていた。ファイル転送ソフトは、個人と個人がインターネットを使って音楽データや画像データをやり取りするために使われる。ファイル転送ソフトはインターネット上に公開されているので、これを自分のパソコンに入れておけば、簡単に音楽データなどを交換できる。