■商談や開発の打ち合わせで重要になるのがヒアリング。上手なヒアリングのためには、質問力を高めなければいけません。質問力を高めるための具体的な方法論を紹介します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 このコラムでも度々ヒアリングについて取り上げてきたが、最近ヒアリング・スキルの研修をやることが多く、あらためて「質問力」の重要性を感じてきているので、今回からは質問力についてお話しする。

 上手なヒアリングのためには、上手な質問の仕方、つまり質問力が必要になる。

 商談などで、なかなか相手から必要な情報を引き出せなくて苦労することは多い。こちらの質問することすべてに無条件で正直に答えてくれるようなシチュエーションがあれば最高だと思う。

 そんなシチュエーションと言えば、医師の問診ぐらいだろうか。なにしろ、こちらは苦しみから解放してもうらことと引き換えだから、どんなに立ち入ったことでも、口が動かせる限りは従順に答える。

 そんな関係性から、医師の問診は質問力の要らない楽なシチュエーションなのだろうか。たしかにそんなシチュエーションにあぐらをかいた、質問力の低い医師はいる。しかし、優れた医師というのは優れた質問力を持っている。

 以前、何かの食当りなのか、夜中に突然胃が痛み出し、病院にかけこんだことがある。そのときの医師の問診の仕方にプロの質問力を感じた。そのときのエピソードを紹介する。

共感と信頼を醸成するプロの質問力

私「夜中に急に胃が痛み出して・・・」
医師「そうですか。それは、さぞおつらかったでしょう。」

 この最初の一言はまさに「共感」である。課題解決してくれる相手が自分の苦しみに共感してくれることで、相手に対する信頼感がぐっと増し、その後の質問に協力的になる。

 そして次に医師は、昨日何を食べたのかなど、基本的な2、3の質問をした後にすぐ、とりあえず看護士に点滴の準備を指示した。この時点では点滴の薬剤はまだ決まっておらず、実際にはこの後も問診、触診が続くのだが、患者としては、心理的に処置が始まった感覚になる。

 いつ処置が始まるのか、どんな処置をするのかという不安が取り除かれ、その後の問診をリラックスした気分で受けられるのだ。

 そうして、触診が始まるわけだが、ただ「ここ痛いですか?」と聞くのではなく、「キリキリした痛みですか? 重苦しい痛みですか?」というクローズ質問が多用される。

 具体的な例示がされるクローズ質問というのは、専門性を伴った目的意識を感じさせ、相手の課題解決力に対する期待感が増す。このような質問プロセスを経ると、どのような処置であっても受け入れる気持ちになれる。

課題解決目的の質問において必要なこと

 この医師の質問の仕方には、課題解決における質問力で重要な要素が含まれている。

  1. まず相手の問題意識に対して共感を示す。
  2. 早期に具体的な課題解決のヒントを与え、安心感を与える
  3. 質問において専門性を示し、解決案への期待値を増す

 これらは、商談でも同じことが言える。商談における質問の場合、医師の問診のように無条件に質問に答えてくれる状態ではない。質問の仕方で、相手に「この人なら自分の課題を解決してくれる」と感じさせなければならない。

 その場合、まさにこのプロセスが重要となるのだ。このプロセスをしっかりと踏むことで、医師に対する信頼と同じような信頼を質問者に対して抱かせることができるのだ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。