FONユーザーにとって,フォンが提供する地図サービスは,FON APを見つける際の頼みの綱となる。ただしAPの登録はAPの所有者の自己申告制である。そのためAPを設置した場所以外の場所にでもプロットできてしまう。例えばFONの地図サービスを見ていると,海上など通常あり得ない場所にもAPが存在している。

 実は筆者もAPの場所を偽っていた。自宅に設置したAPの場所を,FONの地図サービス上では付近の公園にプロットしている。第三者に自宅の場所を特定されるのではないか,といった不安を感じたからだ。

 APの設置場所を偽る所有者が大半を占めれば, 地図に表示されていても実際には存在しないAPが多くなり,FONサービス自体が成り立たなくなるのでは・・・。FONにはそんな不安要素がある。そこで地図に表示されるAPが,実際にどの程度接続できるのか実験してみた。

 実験場所は,日経コミュニケーション編集部がある白金高輪を中心とした半径約1.5km圏内とした。この地域は,北に麻布十番,南に高輪台,東に三田/田町,西に恵比寿/広尾といった町が含まれる。南北に国道1号線が伸び,沿道には高層マンションやオフィス・ビルが立ち並ぶ一方,幹線道路から離れると住宅街が広がる土地だ。様々なAPの設置場所が想定できるため,サンプルとしては悪くない場所だろう。

 実験は,小雨が降る5月25日金曜日の午後に実施した。5月25日の正午時点で, 白金高輪を中心とした半径1.5km圏内にはアクティブなAPが,編集部に設置したものを除いて実に33個も見つかった(写真1)。

写真1●編集部近辺のFON APに対して接続実験
写真1●編集部近辺のFON APに対して接続実験
東京港区の白金高輪駅付近半径1.5km内には,電波を発しているAP(緑のバルーン)が数多く見つかった。これらがどの程度つながるのか実験してみた。写真はフォンが用意する地図よりも動作が軽い,ユーザーが作成した「Simple FON Maps」(http://labs.ceek.jp/fon/)。

 この結果をプリントアウトし,いざ現場付近へと移動し,実際にAPに接続できるか試してみた。携帯電話からFONのAPを検索できる,ユーザーの手によるサービス「FONサーチ」(http://fon.gajapa.jp/)も補助的に使用した。

 実際の接続には,日本IBM(当時)のノートパソコン「ThinkPad X31」を使った(写真2)。IEEE 802.11b/gの無線LAN機能を内蔵している。実験のルールとしては,あくまで公道から地図上のAPに接続可能かどうかを調べた。

写真2●FON APへの接続にはノートパソコンを利用
写真2●FON APへの接続にはノートパソコンを利用

町には無線LANが溢れている

 さて,実際に実験を開始してまず驚いたのが,町に溢れる無線LANの電波の多さだ。今回FONのAPを探した地点のすべてで,少なくとも五つ以上の無線LANの電波が見つかった。中にはアクセス権を設定せず,誰もが自由に接続できるいわゆる“野良AP”も珍しくなかった。

 至る所で無線LANの電波が見つかるという事実は,フォンの創業者であるバルサフスキー氏のアイデアの原点である。同氏が言う「無線LANのインフラは既に十分行き渡っている。ユーザーが普段使っていない帯域を他人とシェアすることで,公衆無線LANサービスができるのでは」という考えは,理にかなっているように思える。

 またソニーの無線LAN搭載テレビ「ロケーションフリー」が発信していると思われる無線LANの電波が目に付いたことも印象的だった。家電製品にも無線LANの搭載が一般的になりつつあることを肌で感じ取った。

ネット接続できるのは5割強

 肝心の実験結果は次の通り。エリアに含まれるAPすべてを半日かけてチェックしたところ,地図上の34カ所のAPのうち(実験中に一つのAPが新たにアクティブ状態になったため1カ所追加した),20カ所は地図の通りにAPを発見できた(図1)。ただその中の2カ所では,APには接続できたが何らかの理由でインターネットに接続できなかった。結局ネットに接続できた地点は,地図中の34カ所のうち18カ所となり,接続できた割合は約5割強だった。

図1●実験結果
図1●実験結果

 筆者個人としては,自らがAPの設置場所を偽っていることもあり,予想以上に地図通りに接続できたと感じた。特に一戸建ての多い住宅地では,大半のAPにアクセスできたことは驚きだった。

 APに接続できなかった14カ所のうち8カ所については,APが高層ビルの上階に設置されていることが原因で接続できなかったと考えられる。10階以上のフロアにAPを設置した場合,無線LANの電波は地表にほとんど届かないからだ。

 フォンとしてもこうした課題に対する解決策を準備しつつある。既存のFON APよりも電波出力の大きい新型ルーターや,「Fontena」と呼ぶAPの電波到達距離を伸ばせる専用アンテナを発売することで課題を解消する計画という。

 一方でAPの場所を偽るケースについては「対策はない」(フォン・ジャパンの藤本CEO)のが現状。APの所有者個人のプライバシーの考え方にかかわるため,フォン側としてもユーザーに正確なAPの位置を記述することを強制できないからだ。

 ただ今回の試験を通して,思ったよりもAPを設置している家を特定することが難しいと感じた。都心は住宅が密集し,集合住宅も多い。そのため,どの家がAPの発信源なのかは実際には判別しづらい。APを開放する側はつい用心してプライバシーを守ろうとするが,利用する側はそれほど意識しないのかもしれない。

「旅日記」が意外に面白い

 実験を続ける中で,フォンが用意する「旅日記(トラベルログ)」が,筆者の新たな楽しみとなった。これは接続したAPの情報をFONのサーバー上で履歴として表示できる機能だ。利用者がどのAPにいつ接続し,どの程度帯域を使ったのかを表示してくれる。もちろん接続先であるAP所有者も,誰がAPに接続したのかを確認できる。

 これと似たような機能は既にSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)では一般的だ。例えばmixi上で第三者のページを覗くと,そのページに「足あと」が残されて,第三者は誰がページを訪れたか分かる仕組みになっている。このとき,「足あと」を残したユーザーは,「足あと」だけでなく,何かメッセージを残さないと少し後ろめたい気持ちが残るものだ。

 これと同じように,FON APを利用させてもらった場合,そのAPの設置者に対してお礼の一言でも書き込みたい気持ちになってくる。フォン側としても「ユーザー同士でお礼を書き込めるような機能はぜひ付けていきたい」(藤本CEO)とし,コミュニティ機能の強化に積極的な考えを示している。

 このようなコミュニティ機能がユーザー同士を結び付け,「みんなでサービスを作る」という機運を生み,サービスの信頼性向上に結びつくかもしれない。

 実験を通して筆者も考え直し,自宅のAPの位置をこっそり正確な場所へと変更してみた。まだ自宅のAPには誰からもアクセスがないが,不思議なことに誰かがアクセスしてくれることを楽しみにしつつある。

出典:日経コミュニケーション 2007年6月15日号 45ページより
(記事は2007年6月末時点の情報を追加したものです。現在では異なる場合があります)