格安ルーターの販売攻勢によって国内最大手の公衆無線LAN事業者となったフォン。フォンは今後もユーザー拡大に向けて,様々な方策を展開する計画だ。フォン・ジャパンの藤本潤一CEOは「この秋を目標に様々な新サービスを投入する計画」と語る。具体的には(1)自宅にFON APを設置していないユーザーでもFONを有料で使えるサービスの開始,(2)新たな専用APの発売,(3)コミュニティ・サービスのスタート,という新たな3つの施策を展開する計画だ。

動画広告表示で15分間無料利用できるサービスも

 現在の日本におけるFONのサービスは,自宅に設置したFON APを無料開放する代わりに,他人が開放したAPを無料で利用できる形。フォンはこれを「Linus」(ライナス)という名称で呼んでいる。実は海外では,Linus以外に「Bill」(ビル),「Aliens」(エイリアン)という形態のサービスも展開している。Billは,自宅に設置したFON APを有料で開放し,他人が開放するAPも有料で利用する形態。Aliensは,自宅にFON APを設置せず,他人が開放するAPを有料で利用する形となる。このうちAliensサービスを,日本でもこの秋から展開する予定。利用料金は1日200円程度になる見込みだ。

 藤本CEOは「Aliensは,自宅にFON APを設置してくれる潜在ユーザーを開拓するきっかけになる」と語る。フォンはあくまでエリア拡大が第一の目的。有料サービスの利用をきっかけに,FON APを設置してくれるユーザーを増やすことが一番の狙いという。

 Aliensサービス開始に先行して,この6月からそのテストケースとも言えるサービスも始まっている。FONの認証画面に表示される動画広告を視聴することで,15分間限定で他人が開放するAPに無料接続できるサービス「WiFi ads」だ(図1)。

 FONのAPに接続後,強制的に表示されるWebブラウザの認証画面で,名前やメールアドレスを簡易登録。その後表示される約30秒の動画広告を視聴することで,15分間の限定で無料で自由にインターネット接続可能になる仕組み(図2)。利用は1アカウントで1日1回までに制限される。

図1●フォンが6月に開始した「WiFi ads」   図2●動画を視聴後,ブラウザに接続可能な残り時間が表示される
図1●フォンが6月に開始した「WiFi ads」
30秒の動画広告を見ることで,15分間限定で無料ネット接続が可能になる
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  図2●動画を視聴後,ブラウザに接続可能な残り時間が表示される
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 藤本CEOは「WiFi adsは,Aliensを提供する前段階の試験サービスの位置付け。WiFi adsを開始後,FON APの利用率は2倍以上と急激に伸びている」と打ち明ける。これまでのFONサービスは,他人が開放するFON APに実際に接続するユーザーはごくわずかだったという。

 WiFi adsは,フォンが狙う広告ビジネスを確立するための第一歩でもある。現在表示される動画はFONのコンセプトの紹介であり,実際の広告クライアントが入っているわけではない。藤本CEOは「クライアントの獲得はこれからだが,地域ごとの広告の出し分けなども可能になっている。無線LANを使うためリッチな動画も流せる」と,広告ビジネスの今後に自信を見せる。

 一方でWiFi adsのサービスは,FON APを開放している善意のユーザーが踏み台にされる危険がますます増える可能性も見える。認証画面でメールアドレスなどを登録するが,本人確認されないまま自由にインターネットが利用可能になるからだ。ホットメールなど使い捨てできるメールアドレスのほか,実在しないメールアドレスを入力しても利用できてしまう。藤本CEOは「セキュリティの強化は全社で力を入れて取り組んでいる課題。ユーザーが安心して使えるような環境を整えていきたい」と語る。

新たな専用AP「La Fonera 1.5」や拡張アンテナの発売も

 秋にかけてはフォンが「La Fonera 1.5」と呼ぶ,現状のLa Foneraを機能強化した製品も販売予定。さらに無線LANエリアをこれまでの5倍に拡げる拡張アンテナ「La Fontenna」も発売する計画だ。ハード面から,無線LANの利用エリアを広げたい考えだ。

 さらには「地図サービスをベースにしたコミュニティ・サービスの開始も計画している」(藤本CEO)。フォンが提供する地図サービスはアクセス数も多く,一つのメディアに成り得るという。藤本CEOは「例えばFONの利用者がAPの設置者にお礼を書き込めるような仕組みや,地域ごとにおすすめのAPをユーザーが投稿できるようなシステムを実現できると面白い」と構想を語る。通常FONのサービスは海外の本社サイドで開発が進むが,「コミュニティ・サービスは,提携プロバイダであるエキサイトとも協力して,日本先行でサービス開発を進めている」(藤本CEO)と打ち明ける。

「年内に7万5000個のAP展開は可能」とフォン・ジャパン

 フォン・ジャパンは2007年内に7万5000個のAPを展開することを目標に掲げている。 期日まで半年を残した7月現在,FONのエリア数は1万8000を超えたところだ。目標達成 には残りの6カ月で5万以上のエリアを確保する必要がある。藤本CEOは「目標は十分達 成可能」と強気の姿勢を崩していない。フォン・ジャパンでは「確実にFONにつながる エリアを戦略的に用意することも検討中」としている。ただしフォン・ジャパン自らが APを設置するのではなく,あくまでAPを設置してくれる提携事業者を見つける方針という。

 エリアが増えれば増えるほどユーザーの利便性は増し,FONの利用率も上がるだろう。 それに伴ってフォンが狙う通信以外のビジネスの可能性も広がりを見せる。もっとも ユーザーの立場からすればこれまで述べてきたように,FONを安全に使うための機能は まだ不十分と言える。エリア拡大やサービス拡充と合わせて,セキュリティの強化やプ ロバイダとの提携に力を入れ,ユーザーが安心して利用できる環境を整えてほしいとこ ろだ。