これまで企業が考えてもいなかった場所に巨大な市場が生まれる。その典型が、米リンデン・ラボが運営する「Second Life(セカンドライフ)」に代表されるネット上の仮想世界だ。
セカンドライフの住民は膨張を続け、4月25日時点で約580万人を超えた。

 07年1月に300万を突破してから、わずか3カ月程度で約2倍に増えた。自発的に登録した住民は3次元の世界を闊歩し、会話し、街や建物を作り、服や物を製造して、販売する。

 セカンドライフの登録者は全員がデジタルなデータで管理されている。数百万人を登録した巨大データベースが短期間で誕生したとみることも可能だ。

仮想世界を超えた一つの経済圏に

 しかも、内部で流通する仮想通貨「リンデンドル」は、実際に米ドルに換金できる。実際にセカンドライフの内部でモノを作って販売することで、現実世界の生計を立てている人間も存在する。現実に販売している商品を展示する店舗も多く、気に入ったものについては通常のECサイトから購入することも可能だ。

 最近では、セカンドライフは「単なる3Dゲームの範囲を超えた、一つの経済圏」との見方も広がっている。

 マツダ、ソフトバンクモバイル、セシール、日産自動車など、昨年以来、大手企業が競うようにセカンドライフに店舗や展示会場を開設した。現時点で多くの企業は、販促ツールや広告媒体とに利用しているが、その形態は広がりを見せつつある(図C)。急拡大する経済圏にいち早く参入して、顧客との新たな接点を持とうとしているわけだ。

図C●日本企業が続々とセカンドライフに進出している
図C●日本企業が続々とセカンドライフに進出している  [画像のクリックで拡大表示]

 企業のセカンドライフ活用のコンサルティングやコンテンツ開発を支援するため、昨年11月に起業したメルティングドッツの浅枝大志社長によると、「セカンドライフに進出して、物販や販促活動をするのにかかる費用は数百万円程度から。参入にかかる期間も最低1カ月程度で済む」という。

 現在は英語版だけだが、日本語の表示や日本語を使ったチャットは可能である。今年前半には正式な日本語版セカンドライフが登場する見込みだ。

大人が知らないケータイ世界

 40代~50代は全く知らないが、10台後半なら4人に1人が参加している。そんな仮想世界が日本にある。

図D●モバゲータウンの会員数の推移
図D●モバゲータウンの会員数の推移
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 ディー・エヌ・エー(DeNA)が携帯電話向けに提供している「モバゲータウン」である。無料のゲームとSNS、日記や伝言板、ミニメールなどを組み合わせたサービスが受け、昨年2月のサービス開始から1年2カ月ほどでユーザー数が441万を突破した(図D)。

 DeNAによると「増え続けるユーザーに対応するため、毎日データセンターのサーバーを1~2台追加して対処している」(モバイル事業部 エンターテイメントグループの畑村匡章グループリーダー)状況だ。

 新しいコミュニティの出現に、企業の関心も高まっている。販促のため、ナイキジャパンとタイアップを実施したり、日本コカ・コーラが炭酸飲料の「ファンタ」のキャラクターをモバゲー上に出すといった試みが始まっている。また、高校生の利用者が多い特性を生かして、東京都と組んで薬物乱用防止キャンペーンを展開した。

 これまで企業は、自社の顧客限定の会員組織を作るなどして、マーケティング用のデータを蓄積してきた。ところがネット上では、とうてい1社で展開できないよう人間の参加する巨大なコミュニティが1年程度で誕生する。

 企業には、自ら顧客を囲い込むのではなく、ネット上の巨大組織、例えばセカンドライフやモバゲータウンなどをうまくビジネスに活用するという発想の転換が求められている。