グループウエアの分野では、社内ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といった、元は一般消費者向けのソフトやサービスが、すでに主役に躍り出つつある。
情報共有には、マイクロソフトのExchangeや日本IBMのノーツ、あるいはサイボウズなどのソフトが不可欠という常識は崩れた。
ブログやSNSは、自らの日々の行動や思いを簡単に発信でき、自由にコメントできる。情報発信が一方的になりがちな従来のグループウエアにない魅力だ。
個人による情報発信が進むと、どの社員がどんな仕事をしていて、どんな興味があるかが、社内で共有される。知識の蓄積とともに、誰がどの業務に詳しいか、いわゆる「ノウフー(Know Who)」機能を備える。こういった点を多くの企業が評価している(表A)。
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表A●主な社内ブログ、SNSの導入事例 このほか、ユニクロ、角川クロスメディア、サマデイ、富士通、NTTデータ、TISなども導入している |
“気軽さ”が情報の流通を生む
NTT東日本は、07年3月時点で7500人が参加する国内最大規模の社内SNSを構築している。参加者はグループ全体の15%に達する。05年10月の正式稼働の1カ月前に10人から開始、全社告知をせず招待制で自然に会員をここまで増やしてきた。
「既存のグループウエアではできない気軽な情報のやり取りが受けた」(ビジネスユーザ事業推進本部 ビジネス営業部の長谷部潤マーケティング担当)。単に気軽なコミュニケーションだけでなく、「質問できる人がいない地方の担当者からの質問に、首都圏の詳しい技術者が回答するといった、地域の壁を越えた情報共有が実現した」(長谷部氏)という。
ジョンソン・エンド・ジョンソンで手術用の縫合糸など医療機材を扱うエチコン事業部は、個人の自主的な情報発信を促して、社内の情報共有に成功した1社だ(図A)。同事業部150人ほどが使うポータルサイトには、05年以降ブログを設置。個人が自分の意見を気軽に書ける「個人ブログ」と、プロダクト/プロジェクト単位で正式に認められた情報を発信する「チームブログ」を用意し、2つの面で情報発信できるようにした。
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図A●ジョンソン・アンド・ジョンソンハエチコン事業部のナレッジポータル ブログ(右下)、匿名の掲示扱、ソーシャル・ブックマーク機能などを盛り込んだ |
マーケティング部の戸上浩明マーケティングコミュニケーションリーダーは「オンとオフの情報を両方書いてもらうことで、『情報の共有』と『感情の共有』が両方できるようにした」と話す。
実は同事業部では、2001年12月から社内のナレッジポータルを用いた情報共有を進めていたが、04年には利用率が下がり、一時は社内で廃止論も出た。ブログを導入したほか、検索機能を強化して情報を探しやすくした結果、情報共有が進むようになった。
コールセンターの立ち上げや運営などを手掛けるバーチャレクスは、社内で有効な情報共有手段を模索した結果、SNSを選んだ。掲示板などはあったが、主に会社からの連絡や各種手続きなどに使われており、社員同士の情報交換には使われていなかった。
同社の約90人の社員は、長期にわたって顧客企業先に派遣されることが多い。1年以上も客先にいると「自分がどこの社員か分からない」「会社の蚊帳の外にいるようだ」というように、会社への帰属意識が希薄になりがちだった。「全社会議を開いても『初めまして』と社員同士が挨拶する始末だった」と丸山栄樹社長は苦笑する。
横のコミュニケーションを重視
同社が重視したのは、「横のコミュニケーション」である。社員が自由に発言して、コミュニケーションが取れるようにするため、趣味などオフの書き込みも許可した。
書き込むモチベーションが高まるような工夫も凝らした。例えば、同社のSNSには「へぇ」ボタンがある。誰かの書き込みにコメントを書くにも勇気がいるので、いいと思ったらボタンを押して、感想を伝えやすくした。
05年夏の採用から1年ほどすると、交わされる会話が「初めまして」から「やっと会えましたね」に変わっていき、よそよそしい雰囲気はなくなっていった。
ブログ、SNSのほかにも、ブログの更新情報や社内外の新規情報をRSSとして発信し、社員がRSSリーダーで情報を閲覧できるようする企業が増えてきた。Webベースのコンテンツ管理システム「Wiki(ウィキ)」を、社内の業務知識やノウハウなどの蓄積に役立てる動きも広がっている。
こういった動きはベンダーも理解している。マイクロソフトは06年11月末に発売した情報共有基盤「SharePoint Server(SPS) 2007」は、ブログ、Wiki、そしてSNS的な要素を盛り込んだ。日本IBMも今年7~8月ごろにSNS構築ソフト「Lotus Connections」を国内で投入する予定だ(図B)。
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図B●IBMはSNSソフト「Connections」を出荷 |
グループウエアやブログなどの動向に詳しい野村総合研究所技術調査部の亀津敦副主任研究員は、「マイクロソフトやIBMが、ブログやSNSを取り込み始めた意味は大きい。大企業への導入基盤が整う今年春以降、導入が本格化するだろう」と予測する。