上田 尊江
TransAction Holdings, LLC.
CEO  Founding Partner


 もう何年も前のことだが、後に主人となるアメリカ人から初めてプレゼントを手渡された。その場で包装を解き、プレゼントを確認した私は感激した。中身を取り出した後の紙袋の中に小さな封筒が残っていたので、私は主人からの手紙だと思い、更なる感激と共に封筒を開けた。

 ところが!

 中から出てきたのはレシートだった。

 まだ米国へ移住する前の出来事であったが、私は随分驚いた。誰かにプレゼントをする際、大抵の日本人はその物の価格を贈る相手に伝わらないようにする。それが日本のマナーであり、店頭でもわざわざ値札を取るサービスが施される。プレゼントの袋から出てきたレシートを繁々と見つめていると、主人からさらに私を驚かせる言葉が発せられた。

 「気に入らなかったら、返品すればいいよ」。

 もらった物を気に入らない場合、日本人であればどうするか。受け取ってくれる他の人にあげてしまうことが多いと思う。リサイクルショップに転売したり、最近ではネットオークションに出品することもあるだろう。だが、その贈り物が買われた店に返しに行き、返金してもらうという話はほとんど聞かない。返品に対する心理的な壁は高いし、小売店側の返品受付条件も厳しいからだ。そもそも贈り物にレシートが付いていることは少ないから、返品はまず不可能である。

 これに対し、アメリカでは、贈り物にレシートを付けることが当たり前だ。クリスマスの後には、贈り物の返品ラッシュが起き、どこの店にも長い行列ができる。贈り物であろうと、自分用に買ったものであろうと、アメリカにおける返品は非常に広範かつ頻繁に行われる。「いつでも(店によっては購買後90日などの期間設定はあるが)」、「どんな理由でも」、「どの商品でも」、返品できる。この認識は消費者の中に浸透している。米国に移住した後、返品制度が日本人には到底考えられないレベルで実施されている現状に私は驚愕することになる。

1年使った後でもかまわない

 まず驚くのが返品の理由である。例えば、代表的なチェーンストア、ウォルマートへ行くと、カスタマーサービスカウンターに長い列ができている。大半が返品のリクエストだ。ある時、何をどのような理由で返そうとしているのだろう、と気になり、興味本位で聞き耳をたててみた。「もう要らなくなった」「気が変わった」「お金がなくなったから返す(だから商品代金を返して欲しい)」という理解に苦しむものばかりであった。

 日本にも返品制度はあるが、アメリカ人のような理由で返品しようとする人はまだ少数派だろう。返品の理由は、間違ったサイズを選んでしまったので他のサイズに変えたいとか、商品に欠陥があったなど、妥当な理由がほとんどである。そして、購入して間もない、新品同様の商品のみが返品の対象である。

 そんなことは当然と思われるかもしれないが、アメリカでは違う。こちらに来て、驚かされるのは、返品理由もさることながら、返品される物の状態だ。明らかに何度か使った物であっても、顧客は平気で返品してくる。店側は文句も言わず、さっさと返品処理をする。先に書いたように、この国では「何でも」返品できてしまう。

 消費者にとってこれほど都合のいい制度はない。とりあえず購入して、気に入らなければすぐ返す。購買直後でなくとも、使用してみて使用頻度が下がってきたら、買った時のレシートを探し出して返品すればいい。次のようなひどいケースもある。電動歯ブラシを購入、1年ほど使用したら故障したので、新しい電動歯ブラシを買い込む。真新しい商品の箱に、古い壊れた歯ブラシを入れ、それを新品を購入した店へ持っていき、返金してもらう。こうすれば、消費者は新しい商品をタダで手に入れられる。一見、詐欺ではないかと思われる行為が合法として行われるのだ。