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同時に24人に1メガのサービス
iBurst基地局の下りのトータル・スループットは約24Mビット/秒ある。1ユーザー当たりのスループットは最大約1Mビット/秒のため,計算上は同時に24人のユーザーに約1Mビット/秒のサービスを実現できる。
例えばインターネットを利用するユーザーのうち,同時に基地局に接続する割合が10人に1人とすると,1基地局で240人のユーザーにストレスを感じさせずに約1Mビット/秒のサービスを供給できる計算になる。実際にはパソコンの電源を切っていたり,インターネットを使わない場合があるので,1基地局がサポートできる加入者数はこの何倍にもなるだろう。
一般に通信サービスでは,データ・レートはピーク性能(最大値)を表記する傾向にある。データ・レートと基地局のトータル・スループットが一致している場合も多い。しかし実際には,基地局に複数のユーザーが同時接続すると,基地局のトータル・スループットを接続しているユーザーが分け合う。同時接続するユーザーが多いほど,1ユーザー当たりのデータ・レートとピーク性能がかけ離れてしまう。
基地局が隣接しても劣化は最小限
実際にサービスを提供する際に,通信事業者はサービスエリアやユーザー数,ユーザー一人当たりの平均データ・レートを考慮し,基地局を最適な数だけ設置して,iBurstネットワークを構築する。
一般的な無線通信の場合,複数の基地局を隣接して設置すると最大周波数利用効率が著しく劣化する場合が多い。しかしiBurstシステムは,アダプティブアレイ・アンテナ技術などを導入することで,劣化を最低限に抑えている。
総務省のIMT-2000(TDD)審議会作業班が実施した「iBurstシステムにおける周波数有効利用効率のシミュレーション結果」によると,高い周波数利用効率を実現できている。
具体的には基地局を6角形に配置し19基地局で負荷をかけるという,干渉が多い状況をシミュレーションしても,下りで3.40bit/sec/Hz/cell,上りで2.24bit/sec/Hz/cellだった。上りと下りを合計した場合は,3.01bit/sec/Hz/cellとなった。
こうした高負荷時の周波数利用効率も,他の無線システムと比べて高い。iBurstシステムが実サービスで,5MHzの使用帯域でユーザーに安定した実効データ・レートを供給できることが実証された。
無線なのに常時接続を維持
安定した実効データ・レートを実現したことで,iBurstは「切れにくい」という特徴も備えている。ユーザー端末がいったんiBurstネットワークに接続し認証が完了すれば,サービス・エリア外に出ない限り接続を維持できる。
これは端末が定期的にiBurst基地局へのランダムアクセスを実行し,使用周波数や通信品質,基地局の込み具合などを自動的に判定。最も適切な基地局との間で接続を保つ機能を備えているからだ。ユーザーは無線ながらiBurstネットワークのサービスエリア内ならば,常時接続サービスを違和感を持たずに利用できる(図1)。
図1●iBurstの常時接続の概念図 移動を伴うハンドオーバーだけではなく,加入者端末が使用周波数や通信品質,基地局の込み具合などを自動的に判定し,最も適切な基地局との間で接続を維持する。 |
「切れにくい」のは,iBurstシステムが適応変調方式を採用していることにも関係している。この技術は様々な無線環境に,最適な変調方式を選択する。その詳細は,iBurst(4)で説明する。
高速移動中も高い通信性能
iBurstシステムは高速移動中でも高い通信性能を維持できる。この機能は,多くの符号変調クラスとそれらを適切に選択する適応選択アルゴリズム,そして常に最良な信号特性を維持する送信出力制御によって実現している。さらにiBurstプロトコルでは,PSKやQAMの受信性能を向上するための工夫がなされている。
これらの機能により,iBurstシステムでは状況に応じた接続性の改善制御を逐次実行。ユーザーが高速に移動していても高いデータ・レートの通信を提供できる。
豪州や南アフリカで商用化済み
iBurstシステムは既に複数の国で採用され,商用サービスが始まっている。これも他の無線ブロードバンド技術と比べて大きな違いといえるだろう。現時点ではユーザーの多くは,iBurstシステムをインターネット接続に利用している。
オーストラリアでは通信事業者の「PBA」(Personal Broadband Australia)が,1.91GHz帯を使って2004年3月にサービスを始めた。サービス・エリアは開始時はシドニーが中心だったが,現在は主要5都市に拡大されている。今後8都市に拡大する予定である(図2)。
図2●オーストラリアではPBAが2004年3月に商用サービスを開始 |
南アフリカでは「WBS」(Wireless Business Solutions)が2005年4月に,1.79GHz帯を使用して正式サービスを開始した。現在はヨハネスブルグを中心とした主要4都市で展開する(図3)。このほか,ガーナ,アゼルバイジャン,ケニア,カナダ,米国でも既に商用サービスが始まっており,ノルウェー,マレーシアでも近日中に開始される予定である。
図3●南アフリカではWBSが2005年4月に商用サービスを開始 |
iBurstシステムは「すぐに手に入る技術」であり,商用サービスでの実績とノウハウが蓄積されたシステムと言える。
IPベースの網構成でコストを抑える
iBurstシステムはIPベースのネットワークを前提に構成されている。基地局と既存のインターネットは,イーサネットなどで容易に接続できる。つまり,少ない投資で容易にネットワークを構築できるシステムと言える(図4)。
図4●iBurstシステム・ネットワーク構成図 IPベースのネットワークを前提に構成されるため,少ない投資で構築が可能である。[画像のクリックで拡大表示] |
しかもiBurst基地局はあらかじめ屋外に設置することを前提に設計されている。このため基地局を格納する専用コンテナや空調機器といった特別な設備が要らない。
コンパクトなサイズに設計されているため,ビルの屋上などのわずかなスペースに設置できる。この自由度は基地局を展開する際に,大きな意味を持つだろう。
ANSIやIEEEにも仕様を提案
iBurstは既にサービスを開始しているシステムだが,並行して標準化活動とオープンなプラットフォーム作りに取り組んでいる。
標準化活動では,ANSIのIEC T1P1委員会に,iBurstシステムの現仕様を「HC-SDMA」との名称で提案。2005年9月14日に承認された。IEEE 802.20にも提案済みで,2007年末の取得を目標に標準化活動を進めている。ITS関連ではISOのTC204ワーキング・グループ(WG)にワイヤレス・ブロードバンドの通信手段の一つとして取り上げられた。
iBurstシステムの普及を推進するベンダー/通信事業者向けに「iBurstフォーラム」が開催されている。同フォーラムでは技術WG,標準化WG,マーケティングWGの三つのWGを構成し,それぞれ活動している。
フォーラムは2005年6月の横浜での開催に続き,2006年3月に南アフリカ,2007年4月にはマレーシアで開催された。
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