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 近年,社会生活の様々な分野でインターネットの利用が拡大している。特にADSL(asymmetric digital subscriber line)やFTTH(fiber to the home),CATVインターネットなどの普及でアクセス回線の高速化が進んでいる。

 一般家庭でもブロードバンド環境でのインターネット・アクセスが日常的になっている。今後,インターネットは至る所に張り巡らされ,取引先のオフィスや友人宅,あるいは空港へ向かうタクシーの中など,移動中でも利用できる環境が提供されるようになる。

 iBurstシステムはこのような要求に応えるべく開発されたワイヤレス・ブロードバンド・システムである。他の同様のシステムに比べてコストが低く,広いエリアでワイヤレス・ブロードバンドを利用可能。誰でも,いつでも,どこからでもアクセスできるインターネット環境,真の「ubiquitous」(ユビキタス)社会を提供できる。

家庭や車内,オフィスなどで利用

 屋内外を問わず,どこでもブロードバンド・インターネット・アクセスが可能なiBurstの用途としては,(1)家庭や会社でのワイヤレスADSLとしての利用,(2)情報端末などとの組み合わせや,携帯端末などによるデータ/音声サービス,(3)空港や工事現場など特殊な地域におけるスポット・サービス,(4)車や電車の中でのインターネット利用やテレマティクス,(5)家庭,会社,学校から社内イントラネットやVPN(仮想閉域網)を活用した本社サーバーとの接続――などが挙げられる(図1)。

図1●iBurstシステムの利用シーン
図1●iBurstシステムの利用シーン
主にHome,Mobile,Spot,Car,Officeの五つのシーンが想定されている。[画像のクリックで拡大表示]

 しかもiBurstシステムはIPベースで構成されるため,VoIP(voice over IP)による音声サービスと高い親和性を持つ。通常の携帯電話以上の音声品質を確保できる。

下り1メガを安定して提供

 iBurstシステムは周波数の利用効率に優れ,基地局のトータル・スループットは高いキャパシティを持つ。このため多くのユーザーに,下り最大約1Mビット/秒のパケット・データ・サービスを安定して提供できる。

 これはiBurstシステムが,PHSシステムやWLLシステムで培ったアダプティブアレイ・アンテナ技術を進化させ,わずか5MHzの使用周波数帯域で基地局のトータル・スループットを飛躍的に高めたことによる。

 アダプティブアレイ・アンテナ技術とは,(1)ユーザー端末からの受信信号の相関関係に基づいて,送信の振幅と位相をコントロールし,(2)送信したいユーザー端末に対して希望波を強調(ビームフォーミング),(3)干渉の対象となるユーザー端末に対して,逆位相を配して干渉波を抑圧(ヌル点形成)する技術である。表1にiBurstシステムの主要諸元を示す。

表1●iBurstシステムの主要諸元
表1●iBurstシステムの主要諸元
5MHzの周波数帯域で,基地局では最大24.4Mビット/秒,ユーザーは最大約1Mビット/秒(どちらも下り方向)を実現できる。[画像のクリックで拡大表示]

 iBurst基地局は12本のアンテナを利用。送信,受信でアダプティブアレイ・アンテナ技術により,空間多重数3を実現している。この結果,基地局のトータル・スループットは最大32.35Mビット/秒(下り最大24.4Mビット/秒,上り最大7.95Mビット/秒)となる。ユーザー・データ・レートは下り最大1061kビット/秒,上り最大346kビット/秒である。

 基地局はPA(パワーアンプ)ユニット部とベース(制御部)ユニットで構成し,給電線損失を低く抑える。さらに防水構造のきょう体の採用により,あらゆる設置場所に柔軟に対応できる(写真1表2)。

写真1●iBurst基地局
写真1●iBurst基地局
左がベース・ユニット。右のアンテナの下にあるのがPAユニット。

表2●iBurst基地局の仕様
表2●iBurst基地局の仕様
ベース・ユニットとPAユニットで構成する。[画像のクリックで拡大表示]

 ユーザー端末は,ポータビリティ性に優れたPCMCIAカード・タイプと,送信出力を高めて安定した通信を実現するデスクトップ・タイプの二つを準備している。カード・タイプはビジネス・ユースで,デスクトップ・タイプはワイヤレスADSLモデムとして使用されている場合が多い(表3写真2写真3)。

表3●iBurstユーザー端末の仕様
表3●iBurstユーザー端末の仕様
[画像のクリックで拡大表示]

写真2●iBurstカード型端末   写真3●iBurstデスクトップ型端末
写真2●iBurstカード型端末   写真3●iBurstデスクトップ型端末

高安定度の実効データ・レートを提供

 iBurstシステムの特徴は大きく3点がある。列記すると
・ユーザーに安定した実効データ・レートを提供できること
・既に商用化されているシステムであること
・コスト・メリットが高いこと
である。

 まずユーザーに安定した実効データ・レートを提供するためには,「周波数利用効率が高く」,「切れにくく」,「高速移動時でも高い通信性能を維持する」システムであることが必要になる。iBurstシステムはこれらの特徴を兼ね備えている。

 iBurst基地局のトータル・スループットは32.35Mビット/秒である。使用する周波数帯域は5MHzのため,単独局での周波数利用効率は最大6.47bit/sec/Hz/cell(一つのセルの周波数1Hzで送れるデータ量)となる。これは他のシステムに比べて高い値である。

 ユーザー向けのスループットは最大1061kビット/秒(約1Mビット/秒)。このデータ・レートは他のシステムに比べて物足りなさを感じるかもしれないが,ここには一般的には表記しづらい仕様の違いが隠れている。

小山 克志(こやま・かつし) 
京セラ 通信システム機器事業本部 ワイヤレスブロードバンド事業部 第1技術部 責任者
1983年3月,明治大学工学部電子通信工学科卒業。同年,京セラに入社。情報機器関連の技術部門を経て,1997年から通信機器関連の技術部門でWLL,iBurstの開発に従事。