顧問先企業の有志を募って,このたび「怪しいコストの探検隊」を結成しました。怪しげなコスト計算をしている企業を,あたたかく優しい目で見守ろうというのが,当探検隊の設立趣旨です。隊長はもちろん,筆者です。
「オッス! タカダ隊長,第1回の探検地はどこですか?」
まず,腹ごしらえとして,コンビニ店に行って弁当を買うことにしましょう。
「おいおい,そこからかよ……」
ありました,ありました,たくさんのお弁当が。会社の会議室でテンプラばかりの仕出し弁当を食べるよりも,筆者はコンビニ弁当のほうが,はるかに好みです。弁当の一つを手にとってラベルを見ると,いまやすっかりお馴染みとなった「消費期限」のラベルが付いています。翌日の「午前3時」と記されていました。
「食中毒の危険性を考えると,消費期限の過ぎたものはどんどん廃棄してもらったほうが,買い手にとっては安心ですよね」
いえ,その考えかたは間違っています。「第10回コラム/企業はなぜ,在庫を持つのか」を逆さに読んで「コンビニはなぜ,在庫を持たないのか」という視点で考えるべき問題です。
コンビニやスーパーマーケットで消費期限を表示しているのは,食中毒を恐れてのことではありませんよ。企業の経営戦略は,そんなに底の浅いものではないですからね。コンビニ弁当ひとつ取っても,管理会計の考えに基づいて,企業の様々な思惑が反映されていることを理解する必要があります。
さて,今回の探検目的は弁当の消費期限を考えることではなく,コンビニ店の不思議な損益計算書を解明することにあります。
次の表をご覧いただくとしましょう。金額の単位は千円です。
表●コンビニ店の不思議な損益計算書(単位:千円) |
「ちょっと変わった様式の損益計算書ですねぇ」
これは勘定科目ごとに集計した試算表段階のものですが,フランチャイズ方式を採用しているコンビニ業界では見慣れたものです。様式は変則的でも,会計の基礎知識があれば,この損益計算書に隠されたトリックを読み取れるはずです。ただし,会計の入門書しか読んだことがなければ,戸惑うかもしれませんが──。
むしろ,入門レベルの書籍などたとえ百冊読破しても,実務の最前線では歯が立たないことを知るべきでしょう。
ひところ,分数計算のできない大学生が増えた,という話題が世間を騒がせたことがありました。分数を理解せずに大学に入ったのだから,在学中に分数をマスターしようという気力があるとは思えず,そのまま社会人となってしまった人が圧倒的かもしれません。この表の右側には構造式を示していますから,社会人としての基礎力を試してみてください。
「この損益計算書のどこに問題があるのですか?」
注意すべきは次の2点です。
(1)「III 本部へのロイヤリティ」は直前の「粗利益」に対して60%を乗じる様式になっている。 →表で青く表示したところ (2)「II 売上原価」の「商品廃棄損▲4,000(千円)」と同額のものが,「IV 営業費」にも計上されている。 しかも,プラスとマイナスが逆転して。 →表で赤く表示したところ |
この裁判については,次回詳しく紹介することにして──,とにかく腹が減ったので弁当を食べてからにしましょうよ。
「おいおい,そこからかよ……」
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■高田 直芳 (たかだ なおよし) 【略歴】 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。 【著書】 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。 【ホームページ】 事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」 (http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/) |