誰も使っていないのに,携帯電話が一斉に電波を出し始めるところがあります。例えば,遠くから走ってきた地下鉄が,地下から地上に出る場所などです。電波が通じない地下から地上に出た瞬間,携帯電話端末が一斉に「位置登録」と呼ぶ処理を始める場合があるからです。

 「位置登録」というのは,携帯電話端末が自分の居場所を携帯電話網に申告する処理です。携帯電話端末はあらかじめ,「私はここにいますよ」という情報を携帯電話網に通知しておくので,電話がかかってきた場合に居場所がわかる仕組みになっています。なお,携帯電話網で端末の居場所が登録されている装置を「ホームメモリー」と呼びます。

携帯電話はなぜつながるのか
紹介した内容については,書籍『携帯電話はなぜつながるのか』(日経BP社)で詳しく解説しています。ぜひ,そちらもご覧ください。

 ホームメモリーに登録してある端末の居場所は,ピンポイントで場所を表示してあるわけではありません。「位置登録エリア」という範囲で登録してあります。位置登録エリアの大きさは携帯電話事業者の規模や設計によって変わります。NTTドコモの場合は全国に数十の位置登録エリアがあるそうです。都心と地方では大きさが違いますが,平均すると都道府県よりも少し小さい範囲というイメージです。

 携帯電話端末は,無線基地局から届く電波を受信して,自分がどこの位置登録エリアにいるかを判断します。位置登録エリアを移ったと自分で判断すると,無線基地局に向かって「私は位置登録エリアを変わりました」と報告します。すると,ホームメモリーが位置登録情報を書き換えます。

 同じ携帯電話事業者のユーザーが一緒に移動すれば,位置登録エリアが切り替わる場所やタイミングは同じです。特に地下鉄は,多くの人が一緒に移動するうえ,電波が届かない場所が多くあります。地下鉄が地上に出たり,駅のホームに着いたりすると,そこで位置登録エリアが切り替わるため,地下鉄車内の携帯電話端末が「位置登録エリアが変わりました」と一斉に報告するのです。ですから,ユーザーが携帯電話を使っていなくても,知らないうちに電波が飛び交って混雑しているというわけです。