本格導入にはなかなか踏み切れないユーザーが多いとされる「仮想化サーバー」だが,日経マーケット・アクセスが国内企業の情報システム担当者を対象に実施した調査「日経MA-INDEX」(6月調査)では,2007年度のIT予算をサーバーの仮想化に振り向けようとする企業がかなり出てきていることが分かった。

 IT分野における2007年度の重点投資項目として「サーバー仮想化」を挙げた回答は,「RFID」や「NGN(Next Generation Network)」,「企業内IP電話/無線電話」,「企業内blog/SNS」といった項目を挙げた回答よりも多かった。

コンピュータの“競合構図”が変化する

 実際の調査結果を少し紹介すると,2007年度のIT予算の中で「サーバー仮想化」への投資を想定しているとした回答は,無回答を除いた365件(注1)の3分の1に上った。無回答が多いため,その点を考慮して数値を見る必要があるが,仮想化の本格的な導入がボチボチ始まっていることがうかがえる。

 これは投資額の予想を見るとはっきりする。サーバー仮想化のために,数千万から1億円以上という高額の予算を考えている企業もあるからだ。具体的な投資額は,1000万円未満とした回答が21.6%,1000万円以上5000万円未満が5.8%だった。5000万円以上も6.0%,その中には1億円以上という高額の回答もあった(2.7%)。

 2008年度の投資額の増減率も併せて尋ねたところ,サーバー仮想化に「新規投資する」という回答は46.9%,2007年度に比べて「10~20%増」~「2倍以上」投資するという回答が合わせて10.8%だった(有効回答数307)。「2010年度の重点投資分野かどうか」という質問には,「サーバー仮想化」を「重点分野トップ3に入る」とした企業が28.0%を占めた(有効回答数602)。

 仮想化サーバーが普及すれば,ハード,ソフト,サービスのいずれの面からもIT市場の構造に大きな影響を与えることが予想される。例えば,1台のサーバー上にLinuxやWindowsなど複数のOSを搭載することが当たり前になれば,これまでのコンピュータの対立構図,「オープン・システム vs プロプラエタリ・システム」,「メインフレーム vs UNIXサーバー vs Linuxサーバー vs Windowsサーバー」,さらにはプロセサ・ベースの「RISC vs IA」などは,大きな意味を持たなくなるだろう。

ビジネスモデルも再確認が必要に

 情報システムのあり方が仮想化によって大きく変わるとすれば,ITビジネスにも大きな変革が要求されることになる。これまでコンセプトが先行し,実際の活用がなかなか進まなかった「SOA(サービス指向アーキテクチャ)」が仮想化サーバーによって普及する,といったプラスの見方も浮上している。

 仮想化サーバーの普及に向けては,稼働中のシステムから仮想化サーバー・システムにどのように移行していくか,という現実的な問題もある。しかし,低価格化に伴って設置台数が急増したサーバーの運用面などを見ても,仮想化がITの主流技術に位置付けられ,システム構築の手法が大きく変わると考えるのは不自然なことではない。

 話は冒頭の調査結果に戻るが,2007年度のIT予算として企業が「仮想化」への投資を想定するようになったことは大きい。しかも,比率としては1.9%だが3億円以上の投資規模で「仮想化」の本格採用に踏み切ろうとしている企業もある。日経マーケット・アクセスでは,今回取り上げた「仮想化」のほか,話題の「SaaS」など今後の成長が期待されている分野について,各市場のウォッチャーを招いて7月13日(金)にセミナー「2010年 IT市場展望」を開催する。日経マーケット・アクセスが毎月実施している調査の結果とそのデータに基づく分析も披露する予定である。

(注1)IT投資額について何らかの回答をした企業数。調査のサンプル数全体は1661。このうち無回答の1296件を除く365件の有効回答で集計した