放送事業者が,「B-CASカード」を使わずに受信機の専用ソフトで地上デジタル放送のスクランブルを解除する限定受信方式(CAS)である「新RMP」の実用化に向けた準備を進めている。NHKやフジテレビジョンなどの放送事業者で組織する「RMP協議会準備会」は2007年中にも,地上デジタル放送の運用規定である「ARIB TR-B14」の改定案のたたき台を作成する方針である。このたたき台を基にしてデジタル放送推進協会(Dpa)が,ARIB TR-B14の改定案を取りまとめる見通しだ。電波産業会(ARIB)がこの改定案を承認し,ARIB TR-B14を改定すれば,受信機メーカーはそれを参考にして新RMP対応受信機を開発できるようになる。

 現行の地上デジタル放送のスクランブル解除に必要なB-CASカードの発行や運用に必要なコストは,放送事業者などが負担している。このため放送事業者はB-CASカードが不要な新RMP対応受信機を普及させて,自社の負担額を減らしたいと考えている。ただ放送事業者がこの考えを実現できるかどうかは現時点で不透明だ。放送事業者が新RMP対応受信機向けのデジタル放送を実現するには,運用規定の作成のほかにも,様々なハードルを乗り越える必要があるからだ。

 例えば,新たな放送設備を設置するという問題がある。現在,地上デジタル放送にはスクランブルがかけられており,視聴者はこのスクランブルを放送受信機に挿し込んだB-CASカードの鍵データで解除している。一方,新RMPはこの方式に対応した放送受信機の専用ソフトの鍵データを使って,デジタル放送のスクランブルを解除する仕組みである。

 放送事業者は,新RMP対応受信機の発売後,地上デジタル放送のスクランブルをB-CASカードの鍵データと専用ソフトの鍵データの両方で解除できるようにしなければならない。このため放送事業者は新RMP対応受信機の利用者に,専用ソフトの鍵データに対応する暗号情報の送信設備を設置する必要があるという。

 これらの作業は,全国すべての地上波放送事業者が実施する必要がある。新RMPは,車内が高熱になってB-CASカードを認識できなくなるという危険がある車載用地上デジタル放送受信機や,持ち運びが容易な小型の地上デジタル放送受信機に採用される可能性が大きいといわれている。このような事情もあり,全国で地上デジタル放送の番組を視聴できるように暗号送信設備を整備することは,新RMP対応受信機を普及させるために不可欠な課題といえる。

 また放送受信機メーカーに,新RMP対応受信機の開発をどのように促すかという問題がある。新RMP対応受信機の開発に乗り出すかは,放送受信機メーカー各社の裁量に任される。もし大半の放送受信機メーカーが新RMP対応受信機のニーズが少ないと判断して開発を見送った場合,この受信機の普及が大幅に遅れる恐れがある。このため今後,新RMPの採用によって小型の地上デジタル放送受信機の開発が容易になる点などを放送受信機メーカーにアピールするという取り組みを,放送事業者が進める可能性もありそうだ。