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北岡弘章の「知っておきたいIT法律入門」

イメージシティ事件判決(2)
争点は複製行為と自動公衆送信の主体

ITpro 2007/07/06 ITpro

 今回は,イメージシティが社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」)に対して起こした「著作権侵害差止請求権不存在確認請求」を,東京地方裁判所が2007年5月25日に棄却するまでの論理の流れを確認したいと思います。前回も整理したように,争点は二つあります。

 一つは,イメージシティのサービスが複製権の侵害に当たるかどうかです。イメージシティは,ユーザーがCDなどから作成した楽曲データを同社のサーバーに保存して,携帯電話から聴くことのできるサービスを提供していました(注1)。このサービスでは,ユーザー自身がイメージシティ提供の専用ソフトを使って,自分のパソコンでMP3ファイル等から3G2ファイルを作成し,イメージシティが運営するストレージ・サーバーへ送信します。ここでは特に,「複製を行っている主体が誰なのか」が問題になります。複製の主体がユーザー自身であれば,「私的利用のための複製」として複製権の侵害にあたらない可能性があるからです。

 もう一つの争点は,ストレージ・サーバーからの楽曲データの配信が,公衆送信権の侵害にあたるかです。ここでも,誰が公衆送信の主体なのかが問題になります。

複製行為の主体をイメージシティと認定

 複製行為の主体としては,ユーザーとサービス提供者であるイメージシティの2者が考えられます。これについて,裁判所は以下のような事実を指摘して,イメージシティが複製行為の主体であると認定しています(注2)(判決文30頁より)。

1.原告の提供しようとする本件サービスはパソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするものであり,本件サービスの説明図4の過程において,複製行為が不可避的であって,本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられること

2.本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと

3.原告は,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること

4.本件サーバにおける3G2ファイルの複製は,上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計されたものであること

5.ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サービスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能になること

6.ユーザは,本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものである

 以上の事実のうち,5の「ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり」が正しいのかどうか,私自身はよく分かりません。ただし,楽曲の複製にサーバーが必須になるという意味で,この事実が「複製主体がイメージシティである」という認定のポイントになっているように思います。

 認定のポイントとしてはもう一つ,4の「上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計されたもの」が挙げられるでしょう。要は,イメージシティの管理するサーバーと連携しない限り,本件のユーザーソフトは使用できないような仕組みとなっており,ユーザーの関与は限定的としています。このことは裁判所が,本件におけるユーザーソフトとサーバー間の複製を,イメージシティが行っている,と判断した一要素と言えるでしょう。

 これらの事実が認められた結果,裁判所は「本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられる」と判断し,複製行為の主体はイメージシティである,との認定を導いています。

 なお,裁判所が複製行為の主体がイメージシティであると認定している以上,著作物の私的利用についての問題は,本裁判では取り扱われないことになります。私的利用のための複製に関する著作権法30条1項は,「…個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは,次に掲げる場合を除き,その使用する者が複製することができる」と定めています。条文の最後で「その使用する者が複製することができる」となっていますから,あくまでも,自分で複製する場合に限って,30条の規定が適用されるのです。

送信主体から不特定多数への自動公衆送信と判断

 もう一つの争点である自動公衆送信権についても,イメージシティとユーザーのどちらが3G2ファイルの送信主体であるかが認定されています。こちらでも,複製の主体とほぼ同様の理由により,ファイル送信の主体はイメージシティ(原告)であると認定しています。

 ただ,自動公衆送信の場合,もう一つ問題があります。イメージシティのサービスの仕組みでは,ユーザー1人にしかファイルを送信できません。にもかかわらず,「公衆」に送信していると言えるのか,という問題です。

 この点について裁判所は,以下のような理由で,自動公衆送信に該当すると判断しています(判決文34頁より)。

インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面はau WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。よって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は,公衆たるユーザからの求めに応じ,ユーザによって直接受信されることを目的として自動的に行われる

 ここで裁判所が判断しているのは,各ユーザーの単位,あるいは特定の3G2ファイルが「公衆」に向けて送信されているかという点ではありません。裁判所が判断しているのは,送信行為の主体であるイメージシティ(原告)から見て,送信の相手方が特定の者なのか,それとも公衆(不特定又は特定多数)なのかです。そして,イメージシティから見て,サーバーに蓄積されるファイルの送信の相手方は,不特定または特定多数である,というのが裁判所の判断です。

一般的なストレージ・サービスは著作権侵害の対象外

 前回の最後で,「本件サービスが自動公衆送信権侵害に当たるのであれば,一般的なストレージ・サービスも同じく著作権侵害になるのではないか」という懸念が広がっていることを指摘しました。

 しかし本判決の理由,特に引用した複製主体の認定理由からすると,本件サービスの特殊性がかなり考慮されています。また,判決文の別のところでは,本件サービスが一般のストレージ・サービスとは異なることを意識した認定も行っています(判決文27頁)。

本件サーバにおける複製は,音源データのバックアップなどとして,ファイルを単に保存すること自体に意味があるのではなく,原告の提供する本件サービスの手順の一環として,最終的な携帯電話での音源データの利用に向けたものであり…

 この引用部分から判断する限り,本判決により,一般的なストレージ・サービスが著作権侵害になってしまうことはないと思います。ただし,著作権侵害にあたるサービスとあたらないサービスの境界は,この判決だけでは,必ずしも明らかではありません。

 次回は,本判決の位置付け,問題点を検討してみたいと思います。

(注1)イメージシティのサービスの概要,構成については判決文および判決文の別紙をご覧ください
(注2)判決では,いくつかある複製行為のうち,ユーザーのクライアント・パソコンからサーバーへの複製行為のみを取り上げて検討しています


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。

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