6月17日,東京で行われた「NHK大学ロボコン 2007」を生で観戦した。一般に「ロボコン」と言えば,「全国高等専門学校ロボットコンテスト」(通称,高専ロボコン)が最も有名だ。テレビで見たことがあるという方も多いだろう。高専ロボコンを題材にした映画もあるくらいだ。

 それに比べると,大学ロボコンはあまり知られていない。もちろん大会の模様は,NHKで全国放送される。しかし,高専ロボコンの全国大会がゴールデン・タイム(午後7時台)に放送されるのに対して,大学ロボコンは休日の朝8時台の放送という扱いなので,知らない人が多いのも仕方がない。

 そうした知名度の差はあるにせよ,初めて観戦した大学ロボコンは思っていた以上に熱気にあふれ,見どころが多いものだった。ちまたにロボコン・ファンが多いのもうなづける。開演から終了まで5時間近くかかったが,途中で飽きることなく最後まで楽しめた。

 今回の競技内容を簡単に説明すると,手動ロボット(1台)と自動ロボット(最大3台)を使って,競技フィールドに置かれたバームクーヘン状の輪っか(直径30cm・高さ20cm,ポリスチレン製)15個を,フィールド内のあちこちにある島(輪っかを通す棒が立っている)に積み上げるというもの。得点は,島によって異なる。

 1試合の競技時間は3分間で,2チームの対戦で行う。当然,より多くの輪っかを積んで得点を稼いだ方が勝ちだが,決められた三つの位置に2個ずつ積むと,その時点で勝利するという必勝パターンも用意されている。

 大学ロボコンの競技内容は,高専ロボコンに比べて,自動ロボットの重要性が高いそうだ。今回の場合も,手動ロボットが届く範囲の島は得点が低く,自動ロボットだけが動けるエリアの内周にいくほど点数が高い設定になっている。高得点を狙うには,自動ロボットの出来がカギを握るわけだ。

 自動ロボットの基本的な作業は,競技開始後,フィールド内のラインをトレースして,輪っかが置かれている場所まで移動し,何らかの方法で輪っかをつかみ上げ,またラインをトレースして,島まで行き,運んできた輪っかを棒に通す。これを競技終了まで繰り返すことだ(これ以外にも,相手のロボットの行動を阻むだけの自動ロボットなどでも良い。そういうロボットもいくつかあった)。

 自動ロボット・エリアの外側では,チームのメンバー一人が手動ロボットを操縦して,輪っかを運び,外周の島に積んでいく。一つの島には,複数の輪っかを積むことができ,最終的に一番上にある輪っかを積んだチームがその得点を得る。つまり,相手が先に輪っかを積んでいても,その上に積めば逆転できるのだ。もちろん再逆転も可能。手動ロボットのポイントは,ともかくたくさんの輪っかを積むという基本作業を行いつつ,なるべく相手の輪っかの上に積むという戦略を考えることだ。

写真●「NHK大学ロボコン 2007」熱戦の様子
写真●「NHK大学ロボコン 2007」熱戦の様子

 競技中は,NHKのアナウンサーがスポーツ中継のごとく声高に実況してくれるので,観客もぐっと試合にのめり込み,どちらかが得点するごとに歓声が上がる。逆転・再逆転を繰り返して,最後の最後まで勝利の行方がわからないといった手に汗握る名勝負もあった。

 なかでも,自動ロボットが黙々と動いて,正確に輪っかを運び,棒に通すシーンがあると,ひときわ大きな歓声があがる。感心を超えてちょっと感動すら覚える。さすがは大学ロボコンという感じだ(今大会の詳細な観戦レポートは,近くDevelopmentサイトにて公開する予定である)。

 しかし一方で,高専ロボコンとの人気差があるのもやむなし,と感じる部分もあった。実は,前述のようなハイレベルな試合は,そう多くはない。全国大会であるにもかかわらず,きちんと動作するロボットを作れていないチームもあるのだ。今大会では,大会開始直後の第1試合で,双方のチームのロボットがまともに動かず,0対0のままで審査員判定に持ち込まれた。第1試合だっただけに,正直なところ「こんな低レベルなのか?」と先行き不安を感じたほどだ。

 つまり,参加しているチームのレベルに開きがある。その理由は明らかだ。大学ロボコンには,高専ロボコンのような地方での予選大会がない。最初の書類審査と,ロボット作成途中のビデオ審査(NHKが取材する)だけで,全国大会出場チーム(今回は21チーム)が決まる。実戦を一度も経験せず本戦に参加するのだから,まともに動かないチームがいても不思議ではない。

 これは,やはり高専と大学とのロボコンに対する温度差の違いだろう。学校をあげてロボコンに取り組んでいるような高専と異なり,大学ロボコンは,興味を持った一部の研究室やサークルが趣味で参加しているところが多い。そもそも参加表明チームがそう多くないので,予選を行う必要がないのだろう。一方で,一部の工科系大学などでは,伝統的に大学ロボコンに注力しているところがあり,そこは相当に強い。

 技術系の大学生がみなロボコンに関心があるわけではないので,高専ロボコンほどのお祭り感や完成度に欠けるのは,ある意味で当然である。だから,大学ロボコンだけを見て,日本の大学のレベルが高いとか低いとか,ロボット工学や製造業の未来が明るいだの暗いだのと軽々しく論じるべきではない。

 ところで,この大学ロボコンは,ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト(ABUロボコン)の日本代表選考会を兼ねている。国内の優勝チームは日本代表として,アジア・太平洋地域の国と地域を代表する大学チームと,同じ競技で対戦するわけだ。2007年は,8月にベトナムのハノイで開催される。

 実はベトナムは,過去5回開催されたABUロボコンで,3回優勝するほどのロボコン強豪国である。ベトナム国内の大会では大勢の観客が集まり,ロボットの一挙手一投足に鳴り物入りで応援するそうだ。また,タイも常に上位に顔を出す強豪国であり,タイ国内の大会には100を超えるチームが参加するという。予選は,人が集まりやすいデパートなどで行われるため,国民の認知度も高いらしい。

 そうしたアジア各国のABUロボコンに対する入れ込み具合を聞いたとき,不安に感じたことがある。そう,もし,日本代表チームがABUロボコンで惨敗してしまったら,それだけを見て「日本の大学のレベルはそう高くない」とか「技術水準が落ちている」などと,訳知り顔で語られてしまうのではないか,と。

 「たかが大学ロボコンじゃないか」と反論したいが,ロボコン熱の高い国々では「されど大学ロボコン」なのである。幸いなことに,日本代表チームはこれまで,1度の優勝を含め,たいてい上位にからんでいるので,そう軽んじられる存在ではない。やはり国内のトップチームのレベルは,アジアにおいても高い。

 2007年のABUロボコンの日本代表である金沢工業大学チームは,くだらない心配など気にすることなく,のびのびと戦って欲しい。国内大会で見せた圧倒的な実力はすばらしいものだった。普段通りにやれば,十分上位を狙えるだろう。がんばってください。