アメーバ経営の導入や効果的な運用のコツは何か---。京セラの森田直行副会長に聞いた。森田副会長は、同手法を使った経営コンサルティング事業を手がけるKCCSマネジメントコンサルティング(KCMC)の社長を兼務しており、京セラの稲盛名誉会長から薫陶を受けた、アメーバ経営の申し子と言える存在である。



アメーバ経営という手法は、京セラのような製造業以外の業態の企業にも適用できるものでしょうか。

写真●京セラの森田直行副会長
アメーバ経営手法の導入コンサルティング事業を手がけるKCCSマネジメントコンサルティングの社長を兼務している。
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 お客様を相手に売り上げが立つ部門と、お客様に販売する製品やサービスを作ったり仕入れたりする部門がある団体なら、機能するはずです。前者を「営業部門」、後者を「製造部門」ととらえれば、京セラと同じです。

 ただし、アメーバ経営をうまく機能させるためには、アメーバと呼ぶ小集団の組織をどのように編成すればいいかを最初にきちんと決めることが欠かせません。さらに、組織変更に伴って、業務フローを変え、各アメーバの責任範囲を明確にすることが大切です。

 製造業の会社では、営業部門は10人なのに、製造部門が100人というのはよくあります。こんなとき、営業は10人で1つのアメーバでいいかもしれませんが、製造は工程別に複数のアメーバに分けるといい。原価計算をしっかりやって、工程間のやり取りを金額換算するのです。

 その結果、製造部門のみんなの原価計算能力が高まり、市場の細かな変動に対応できる見積もり能力がつきます。これに対して、一般に大手企業では細かな原価計算は四半期や半期ごとに経理部門が一括することが多い。つまり、アメーバ経営なら「市場に直結したものづくり」が可能になるわけです。

営業部門と製造部門では、アメーバ経営の最重要指標である「時間当たり採算(時間当たり付加価値)」の算出方法が若干異なりますよね。便宜上は「(売り上げ-経費)÷労働時間」と総括していますが、営業部門の時間当たり採算は「(総収益-経費)÷労働時間」、製造部門は「(総生産-経費)÷労働時間」で計算しています。

 営業部門の「総収益」は、営業部門が顧客に製品を販売して得た売上金額に、事前に決めた口銭率(製造原価率)をかけ算したものです。口銭率を固定化するのは、ライバル企業との競争上、営業担当者が安易に販売価格を下げたり、原価率を下げてくれと製造部門に頼み込むのを抑制するため。営業部門から逃げの理由をなくし、時間当たり採算を高めるための知恵を絞り出してもらいたいのです。

 ただし、口銭率を設定するのは受注生産方式を採用している製品だけです。在庫販売方式の製品はやり方が違います。営業部門と製造部門が協議して希望小売価格や社内売買価格などを事前に決めておき、営業が責任を持って製造に発注をかけるのです。いったん決めたこれらの金額は、発注後は変更させません。

つまり原則的には、製造部門の生産量を決めるのは営業部門になるわけですね。万が一、いいかげんな需要予測をして大きな不良在庫が発生したら、営業部門が減損処理をする。ところで、アメーバ経営における間接部門(本社や事業所のスタッフ部門)の役割はなんでしょうか。

 間接部門は売り上げがありません。そのミッションは、会社の収入に直結している人たちをどうサポートすればいいかを考えることです。間接部門で発生した経費は、製造部門にも営業部門にも按分されます。つまり、間接部門が経費を削減すれば、製造部門と営業部門の時間当たり採算も小さくできるわけです。

 だから、間接部門の仕事ぶりは他のアメーバ全部から見られています。大家族のお母さんみたいなものですね(笑)。

アメーバ経営の大きな特徴の1つは、採算表に「労務費(人件費)」を書く欄がないことです。つまり、時間当たり採算という独自指標は、労務費は考慮していない数値。労務費をアメーバに管理させない狙いを教えてください。

 日本企業では、賃金はいまだに年功序列の傾向が強いですよね。だから、労務費すなわち給与までみんなにオープンにしてしまったら、現場の人間関係がぎくしゃくしかねません。そして、(課長未満の若手が任命されることが多い)アメーバリーダーにそこまでの重責は負わせたくない。時間当たり採算を高めるための努力は、和気あいあいとゲーム的な感覚でやってほしい。

 また、時間当たり採算はアメーバの大小にかかわらず、比較的近い数値となります。だから、経営者は小さいアメーバの業績を見落としにくくなるし、アメーバ間に適度な競争心が芽生えやすい。そのうえ、時間当たり採算を大きな値にするには、売り上げを伸ばすか、経費を削るか、時間を有効活用すればいい。これなら財務諸表と違って、パートさんにも分かりやすいですよね。

 つまり、アメーバ経営は「人に優しい採算管理の仕組み」なのです。現場がギスギスすすることなく、従業員みんなの採算意識が高まるし、経営陣や幹部が現場の採算状況を細かに素早く把握できるようになります。

 アメーバ経営ではサービス残業は御法度です。残業しているのに採算表に正確な総労働時間を記載しないと、時間当たり採算は高くなりますよね。それでは、ちゃんとルールを守っているアメーバから不平不満が出てきます。「会社の方針としてサービス残業はだめだ」と、経営トップが現場に言い続けることが大切ですね。