光ファイバーや光通信機器、FPC(フレキシブルプリント配線板)などの製造・販売を手がけるフジクラは、大橋一彦社長の強力なリーダーシップの下、経営改革を断行中である。
創業120周年に当たる2005年を「第3の創業の年」と位置付け、同年10月に経営理念を明文化。2006年10月には理念をなんと絵本に落とし込み、社長自ら浸透活動に精力的に努める(参考記事)。さらに、トヨタ生産方式をベースとした「G-FPS(フジクラ流の製造部門と間接部門の業務改善活動)」の中にアメーバ経営手法を融合させようと格闘している最中だ。
G-FPSは、(1)業務プロセスの聖域なきムダ取り活動、(2)顧客の視点での製品品質の向上を目指す業務改善活動、(3)アメーバ経営手法を使った採算意識と経営感覚の現場への浸透---で構成される。フジクラの製造部門はトヨタ生産方式(TPS)のコンサルティングをおよそ1年半前まで受けていた経験がある。
「問題を見えるようにする仕掛け」を製造ラインに多数施したり、ムダ取りや改善活動の際に「なぜ」を徹底的に突き詰めていく思考スタイルなどは、まさにトヨタ流だ。しかし、これだけでは現場の社員一人ひとりまで強い採算意識や経営感覚は芽生えさせるのは難しい。そこで、「売り上げ最大、経費最小、時間最短」を常に意識させるアメーバ経営手法を追加したのだ。
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写真1●アメーバ経営手法を導入したフジクラ鈴鹿事業所の製造現場 大画面のパソコンを各製造ラインの横に置き、アメーバごとの日々の売り上げや経費、差し引き利益などを閲覧可能にした。さらに業務改善事例を写真付きで紹介するボードを併設し、現場の従業員の士気を高めている [画像のクリックで拡大表示] |
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今のところフジクラの業績は堅調ではある。2007年3月期決算は売上高が対前期比28.4%アップの約6500億円と、過去最高を記録した。当面の大きな経営目標は、2010年度以降に営業利益率10%以上を継続できる状態にすることだ。現時点では5.3%に過ぎない。
フジクラは、電子電装部門、鈴鹿事業所、東北フジクラ、青森フジクラ、フジクラテレコムなどグループ会社を含む計10部門・会社までアメーバ経営手法を導入済み。現在はフジクラ最大の製造拠点である千葉県の佐倉工場への導入とグローバル展開の準備を進めているところだ(写真1)。
改善効果が業績に直結した数字で把握できる
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写真2●フジクラの清水明生・鈴鹿事業所長兼メタルケーブル事業部製造部主席部員 [画像のクリックで拡大表示] |
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2006年1月からアメーバ経営の導入を始めたフジクラの鈴鹿事業所の清水明生・鈴鹿事業所長兼メタルケーブル事業部製造部主席部員は、アメーバ経営の長所の1つをこう説明する(写真2)。
鈴鹿事業所ではアメーバ経営を徐々に各部に広げているところ。同事業所には、メタルケーブルを製造する部門と、光ファイバーシステムを製造する部門、古河電気工業との合弁会社であるビスキャスが同居している。現時点でアメーバ経営に関与しているのは、メタルケーブル事業部の約110人と間接部門の約30人。この計140人程度を8つのアメーバに分割している。
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写真3●アメーバ経営の事務局長の役割を担う菊田和夫・メタルケーブル事業部製造部生産技術センター主管部員 左上は、実績採算表と改善策の月別の推移をプリントアウトしたもの [画像のクリックで拡大表示] |
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5カ月目にアメーバ経営についての詳しい説明を全従業員に実施し、リーダーに詳細な運用方法を学ぶ研修を施した。こうして6カ月目からアメーバ経営をスタート。最初の数カ月は概算値を使ったおおまかな採算表を作り、徐々に採算表の精度を高めていった。
アメーバ経営が軌道に乗り始めた現在、「様々な業務改善の効果が、業績に直結した金額で分かるので、やりがいが高まったという意見が多い」と、菊田和夫・製造部生産技術センター主管部員は語る。同氏は鈴鹿事業所メタルケーブル事業部でのアメーバ経営事務局長の役割を担う(写真3)。
工場の各ラインの横には大画面のパソコンが設置され、アメーバごとの日々の売り上げや経費、差し引き利益などを見られるようにしてある。業務改善事例を写真付きで紹介するボードも併設してあり、現場の従業員に採算と改善を常に意識させる環境となっている。