建設機械大手コマツのシステム戦略は,世界各地にあるシステムの隅々にまで統制を効かせるのではなく,統制対象を絞り込んでいることが特徴である。この点は,世界規模でシステムの共同化を進めるコニカミノルタや,十数年かけて海外拠点のシステムを標準化し,さらに世界共通システムの構築を進めているYKKと異なっている。

 コマツが統制対象のシステムを絞るのは,建設機械の売り上げ世界2位という事業規模の大きさと,情報システム部門の限られた人的リソースのバランスを考慮した結果だ。

 同社は連結対象のグループ会社だけで国内外に188社を抱え,都市部だけでなく郊外の工事現場や鉱山などにも顧客がいる(写真1)。日本の情報システム部門の限られた人的リソースでは,これら世界各地に散在するシステムを一から十まで統制することは難しい。だからこそ,「統制を効かせるべき対象は何か,“自律”に任せる部分はどこかを,じっくり議論したうえでグループ全体の情報システム戦略を練っている」(コマツe-KOMATSU推進室の市原令之室長)。

写真1●コマツの建築機械は,売り上げシェアが世界2位。日米欧だけでなく,アジア,南米などでも利用されている
写真1●コマツの建築機械は,売り上げシェアが世界2位。日米欧だけでなく,アジア,南米などでも利用されている
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 日本の情報システム部門が統制を効かせ,これまで積極的に標準化を進めてきたのが生産管理システムだ(図1)。ERPパッケージであるSAPのR/3や旧SSAグローバルのBaaNを使い,どの拠点にも,ほぼ同じ機能を持ったシステムを導入している(R/3は導入当時の製品名で現在は「SAP ERP」,SSAグローバルのBaaNは,現在はインフォアの「Infor ERP LN」)。1996年にドイツや米国の工場にシステムを導入したのを皮切りに,ほかの海外拠点にも順次導入してきた。サーバーは現地に置き,現地の担当者が運用するのが基本である。

図1●コマツがグローバル・レベルで採用している情報システムの構築・運用方針
図1●コマツがグローバル・レベルで採用している情報システムの構築・運用方針
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 2001年から03年にかけては機能追加も実施し,海外各拠点のシステムをバージョンアップさせた。従来は建築機械の座席シートや空調などを,顧客が自由に選択して組み合わせることができたが,その自由度をあえて下げ,数パターンの組み合わせから部品を選択する方式にした。「パターン化すれば,販売予測や生産計画の策定がより正確になる。また,建設機械の安全性を保証できるパターンだけを提示するため,結果的には製品を購入する顧客にとってもメリットがある」(市原室長)と考えたためだ。

海外にある建設機械の走行距離や土砂積載量が即座に分かる

 生産管理システムに続き,コマツが情報システム部門の統制のもとで,世界に展開しようとしているシステムが,「KOMTRAX」と「VHMS」である。いずれも,海外の最終顧客が使用している建設機械に内蔵したセンサーから,機械の稼働状況などのデータを収集し,分析するためのシステムである。現在,主に日本,北米,中国で利用している。

 これらのシステムにより,チリの鉱山にあるブルドーザーが何トンの土砂を積んで,何キロメートル走行したか,といったことが日本からでも即座に分かる(図2)。建設機械のメーターに表示される走行距離や温度などのデータのほか,建設機械に組み込んだ各種センサーで収集したデータも集めることができる。KOMTRAXに対応した建設機械の場合は,GPS(全地球測位システム)端末も組み込まれており,個々の建設機械の現在位置も地図上で確認できる(VHMSは鉱山用の建築機械に特化したシステムであり,移動範囲が限られるのでGPSは使っていない)。

図2●コマツは,過去に販売した建設機械から稼働情報や位置情報などを集めて販売促進につなげるシステムを日本で2001年に稼働。情報収集の対象やシステムの利用者を全世界に展開しようとしている
図2●コマツは,過去に販売した建設機械から稼働情報や位置情報などを集めて販売促進につなげるシステムを日本で2001年に稼働。情報収集の対象やシステムの利用者を全世界に展開しようとしている
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