三城氏写真 筆者紹介 三城 雄児(みしろ・ゆうじ)
ベリングポイント マネージャー

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。都市銀行、ベンチャー企業、国内系コンサルティングファームを経て現職。特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム調査委員会委員長。民間企業や行政組織の人事改革に取り組むかたわら、組織・人事に関わる各種の講演・執筆など積極的な活動を行っている。

 コーポレート・コミュニケーション(企業・組織内での意思疎通)の手段は様々である。民間企業では様々な手段を用いて、トップメッセージの伝達や部門間の連携に必要なコミュニケーションを強化している。昨今はITの発達により、コーポレート・コミュニケーションのあり方に見直しが図られており、民間企業では多くの企業がITを活用したコミュニケーションの強化に乗り出している。

 例えば、NTT東日本では2005年10月から、社員間のコミュニケーション促進によって社員のやる気を向上させ、業務の活性化につなげることを目的として、社内コミュニケーションの場を設置している。「Sati」とよばれるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、興味ある分野ごとにコミュニティが形成され、世代や拠点を超えたコミュニケーションの場が創出されている。現在では7500人が参加する情報インフラとして社内に定着している。

 一方で、ITの発達が逆に、コーポレート・コミュニケーションの強化の必要性を高めているとも言える。例えば、電子メールの発達・普及により、民間企業だけではなく公務員型組織においても、住民からの苦情や問い合わせへの対応を電子メールで行なうようになってきた。米国の例ではあるがJupiter Research社の調査によれば、調査対象者の88%が、電子メールでの問い合わせた場合に24時間以内の返信を期待しているという。つまり、返信へのスピードアップが求められており、現場担当者がその場で解決策を立案して提言しなければならないケースも増えている。

 このような状況では、現場担当者がどのような対応をしているのか上位層は管理しきれない。上司の確認を待ってから電子メールを返信するというような対応では、スピードが落ち、顧客満足度に悪影響を及ぼすからだ。現場が自ら判断して対応するケースが増えている。そこで必要になるのが、現場担当者と上位層や企画担当者との間での、双方向コミュニケーションを増やすことだ。

 従来は、上位層から現場に明確な指示をする単方向のコミュニケーションで成り立っていた。しかし今は、むしろ現場から上位層、あるいは企画担当者へのコミュニケーションが重要性を増してきている。現場が自律的に行動をするようになってきたため、現場でどのような問題が起こっているのかを、上位層は何らかの手段を用いて吸収しなければならないからだ。筆者はの感覚では、実際に現場の状況を把握しようとする簡易サーベイを活用する企業が増える傾向にある。

 このような上位層と現場とのコミュニケーション強化の際に語られるキーワードは、(1)「紙媒体」から「非紙媒体」へ(2)「集団向け」から「個人向け」へ(3)「単方向」から「双方向」への3点である。

■図1 コーポレート・コミュニケーションのチャネル例
コーポレート・コミュニケーションのチャネル例
※ 図中の「アンケート サーベイ」については連載第4回、“使わせる”eラーニングについては第5回を参照。

 (1)「紙媒体」から「非紙媒体」へ---これはIT活用の直接的な効果となる。例えば、これまで職員は配布された紙の人事評価シートに手書きで必要事項を記入していたが、これがパソコン上でファイルを受け取り、作成・提出もできるようになった。人事担当者は、資料の収集や取りまとめの手間も大幅に減少した。さらに、各人のスキルや経験などの人事に関するデータが蓄積されることで、それらのデータを活用できるようになった。例えば、次なる人事上の課題を明らかにして解決するといったような取り組みが行えるようになった。

 (2)「集団向け」から「個人向け」へ---職員に求められるスキルや経験が多様化すると共に、中途採用や非正規職員の増加などで職員の価値観も多様化してきた。これに伴い、職員を集団としてとらえるのではなく、一人ひとりの職員の状態に応じた対応が求められるようになってきている。

 (3)「単方向」から「双方向」へ---ビジネスが高速化したことにより現場の重要性が高まったため、上司から部下、トップ(経営者)から現場というトップダウンによる一方向の意志伝達だけでは不十分になってきた。部下から上司、現場からトップ(経営者)というルートも加えた双方向の情報流通も求められるようになってきた。

 上記3点を意識したコミュニケーション流通の仕組みは、多くの民間企業で積極的に取り入れられ始まっている。その一方で、公務員あるいはそれに準じる組織では、通達や規程類を大量に用いるという伝統的な業務運営がいまだに続いている。その影響は大きく、公務員組織でのコーポレート・コミュニケーションは、昔ながらの「紙媒体」による「集団向け」(図1の左下の領域)、かつ「単方向」のものが中心である。

 このことは逆に、公務員型組織においては、ITを用いてコーポレート・コミュニケーションのあり方を見直せば、改善の余地が大きいということを意味する。公務員型組織では、「非紙媒体」による「個人向け」(図1の右上の領域)、かつ「双方向」のコミュニケーションを強化することにより、業務改善にもたらす影響・効果が比較的大きいと言える。