■お客様に提案書の内容を説明する。あるいは、セミナーで講演するなど、プレゼンテーションの機会は多いもの。プレゼン編は今回が最終回。プレゼンにおいて大切なことは何かをファシリテーションの視点で解説します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 プレゼン編の最終回は、「プレゼンせずにプレゼンする」である。

 えらそうにプレゼンテーションについて語っている私だが、実は私自身、プレゼンはどちらかというと苦手なのである。ファシリテーターとは漫才で言えばツッコミ役である。誰かの発言にツッコミを入れることで、その発言の価値を高めたり、議論そのものをおもしろくしたりする。

 だから、ボケ役ではないが、ツッコむ対象がないと本当は生きない。独りでおもしろいことを言う漫談家とはちょっと違うのだ。

 ときどきセミナーなどで講演もするが、いまだに苦手意識は消えない。それでも、人前でしゃべることには慣れているので、普通の人よりはソツのないプレゼンをできるが、ファシリテーションに比べると今ひとつしっくりこないと自分でも感じる。

 ただ、そもそも「プレゼン」イコール「独りしゃべり」と考える必要はない。「プレゼンテーション」の意味は「発表」「上演」だ。なんらかの形式で観客に対して、製品の話なり提案内容なりを「出し物」としておもしろおかしく見せればいいのだ。

 出し物として成立すれば、紙芝居でも人形劇でもいいのだ。そういう意味では「スピーチせずにプレゼンする」と言った方が正確だとは思うが、ほとんどの人が「プレゼン」イコール「一方的に観客に向かって語りかけるもの」と理解していると思うので、今回の主題を「プレゼンせずにプレゼンする」とした。

 さあ、それではどうするか。

「から騒ぎ方式」のかけ合いショーとインタビュー方式のトークショー

 一つは、私がよくやる方式だ。「から騒ぎ方式」とは、明石家さんま氏の某テレビ番組からとっている。セミナーで少しだけ講演をする。いったん講演を終了し、その際に講師への質問を質問シートに記入していただき、その場で回収する。そのあとに質疑応答セッションを別に設ける。

 そこで、質問シートをもとに質疑応答を始めるのだが、このときに質問シートに記入した質問者に対してマイクを向け、質問の真意や背景などを聞き、かけ合いトークでセッションを展開していく。

 こうすると、通常の講演後の質疑応答では出ないような活発な質問が出るし、会場を巻き込むことで会場との一体感、ライブ感が増し、観客の満足度が高まる。

 私の場合もっともメリットに感じるのは、私の得意のツッコミ芸の領域に持っていきながらプレゼンができることだ。だから、弊社が主催するセミナーでは、講演での話はさわり程度にしておいて、このかけ合い質疑応答セッションで、実質的にプレゼンをするようにしている。

 ITベンダーのセミナーであれば、お客様に導入事例を講演いただくことがある。お客様は必ずしも講演に慣れているとは限らないし、ゲストとしてお招きしたお客様に講演の質を要求するのも難しい。

 こういう場合、聞き手がいるインタビューする方式のトークショーにしてしまうというやり方がある。トークショーのいいところは、観客が聞き手に自分を重ねて擬似参加体験ができることだ。そのため、臨場感を感じられ、退屈しない。

パネルディスカッションもひと工夫

 パネルディスカッションもこのトークショーの一種である。私も時折パネルディスカッションの司会をやるが、演出が意外と難しいのだ。へたをすると退屈なミニ演説大会になってしまう。

 パネルディスカッションをショーとしてちゃんとやろうとすると、綿密なシナリオを用意すべきだ。

 パネルディスカッションを効果的に演出する簡単な方法を紹介する。各パネリストにフリップを配っておく。そして、論点ごとに質問を投げ、その回答をフリップに記入してもらう。一人ひとりフリップの内容を説明してもらう際に、ビデオカメラなどを使ってフリップそのものをスクリーンに映し出す。

 何人もの回答者が出てくるテレビのクイズ番組などと同じだ。あの手の番組が退屈にならないのは、そのようにして、笑いや驚きの対象となるものを切り取りやすくコメント化してくれているからだ。

 バラエティ番組で、「ここ笑うところ」という具合にゲストの発言をテロップにするのと同じ。ゲストの力量にあまり左右されずに、そのなりのおもしろさで番組を楽しむことができるのには、そういった工夫がある。

 中途半端なミニ演説大会になりがちなパネルディスカッションもこの方法を応用することで、楽しめるショーに変化する。

 皆さんもこのようにして、プレゼンを一方的なコミュニケーションと考えずに、インタラクティブな出し物にしていってはどうだろうか。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。