ソフトウエア開発において,いろいろな概念や単語,意味などを分類・整理する場面は数多くあります。それを個人の頭の中でやることも多いですし,KJ法(川喜田二郎氏によるグループ問題解決思考法)などを使って複数人でアナログ(付箋紙と模造紙)を使って行うこともよくあります。

 マインドマップ・ソフトウエアを使うと,このような分類・整理を効率よく行うことができます。アナログと違って,手軽に枝をつまんでドラッグ&ドロップで移動できるので,個人でも,またグループでもプロジェクタを使ってマップを共有しながら分類・整理できます。さらに,マインドマップのツリー構造の表形式との相互変換も可能です。

 図8は,ISO/IEC 9126-1:2001,およびJIS X 0129-1:2003で提示されている,ソフトウエアの品質特性の表と,それを示したマインドマップです。実際に,表を「コピー」して,マインドマップの中心を選んだ状態で「貼り付け」すると,表の6つの大項目(品質特性)がそのままBOIとなるように,マインドマップがコピーできます。

図8●ソフトウエア品質を表現する「表形式」と「マインドマップ」
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 最初にマインドマップで概念を分類・整理して,そのあとでExcel に貼り付けるとか,逆にExcelの表をコピーしてマインドマップを作ってそこで分類・整理する,といった使い方が便利です。グループで使う場合は,これをプロジェクタに映しながら行います。この例では,「表形式」という形式の利点と「マインドマップ」という形式の利点をうまく補完して使うことになります。

 ロジカルシンキングと呼ばれる論理的思考法があります。ロジカルシンキングでは,あることを論理的に説明するためにロジックツリーを作ります。ロジックツリーとは上位の目的とそれを説明実現するための下位の手段を論理的,再帰的なツリー構造にしたものです。ソフトウエア品質は,このロジックツリーの例でもあり,マインドマップが得意とする表現のひとつです。もう少しロジックツリーを見てみましょう(図9)。

図9●ロジックツリーの例
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 このロジックツリーの例では,ある会社で「利益を増大する」という最上位の目的を達成するために,どうすればよいかを考えています。まず,この目的達成の手段として「売上を増大する」と「経費を削減する」にブレークダウンします。さらに,「売上を増大する」は,「価格を上げる」と「販売個数を増やす」に分解できるでしょう。また,「経費を削減する」は,「仕入れを減らす」「人件費を減らす」「光熱費を減らす」「減価償却費を減らす」・・・などに分解できるかもしれません。

 このようなツリーの分解は一意ではありませんが,ロジックツリーでは「モレなしダブリなし」で分解していくことが説得力につながります。このような「モレなしダブリなし」のブレークダウンの仕方を,MECE(ミーシー, Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)といいます。

 この例では「利益を上げる」には,「売上を増大する」か「経費を削減するか」の必ずどちらかしかありません。また経費のブレークダウンも,費目をすべて挙げればMECEとなります。

 お互いにダブることなく集めると全体を満たす,という論理分解の仕方がMECEであり,ロジカルシンキングの基本となる考え方です。MECEには,物理的MECEと有名MECE(慣用MECE)と呼ばれるものがあります。

 例えば,マーケティングにおいて商品のターゲット・ユーザーを想定する場合,「北海道地区」「東北地区」「中部地区」「関東地区」「関西地区」「近畿地区」「中国地区」「四国地区」「九州地区」という地域で分けたり,あるいは「20歳未満」「20歳代」「30歳代」「40歳代」「50歳代」「60歳以上」というように年代で分けたり,「男性」と「女性」の2つに分けたりするのが物理的MECEです。

 これに対して有名MECEとは,例えばマーケティングにおいて商品の売り方を,Product(製品),Price(価格),Place(場所),Promotion(販促)の4つの「P」について考えるなど,過去にうまくいったやり方,高名な先生が唱えた理論,あるいは研究から明らかになった法則を使って論理構成を分解するMECEです。

 先の品質6特性も有名MECEのひとつです。こういった有名MECEは,思考ツールとしてかなり普及しており,例えばコンサルタントを職業とする人たちはこれらを思考フレームワークとして使っています。マインドマップで,このようなMECEをテンプレートとして用いることで,思考の整理と方向付けを得ることができます。

デザインパターン

 最後にもうひとつ,分類・整理の例として「デザインパターン」と呼ばれるソフトウエアの設計パターンを図解したマインドマップを紹介しましょう(図10)。

図10●デザインパターンを示すマインドマップ
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 1995年に“Gang of Four”(略称 GoF)と呼ばれる4人組が,ソフトウエア設計の中で頻繁に現れる設計パターンを,「状況」「問題」「解決」の組に名前をつけてまとめました。これは23個のデザインパターンとして,現在ではソフトウエア設計を行う中級者が必ず学ぶ語彙となっています。

 このマインドマップでは,このパターン群を3つに分類し,色づけし,パターン間の関連を点線で結ぶことによって絵として全体像を表現しており,「パターン地図」のように機能します。フォントや色を工夫し,これらのパターンを覚えやすくすることを目的に,ビジュアル面に気をつけたデザインにすることで,全体イメージとして記憶に焼き付ける効果を狙っています。

 さて,このように,マインドマップ・ソフトウエアを使って分類・整理を行うことの利点は以下のとおりです。

  • 枝を移動しながら分類・整理の過程が見える
  • 新しい枝がすぐに作れる
  • あとでExcelなどの表形式に変換でき,表形式からもマインドマップに変換できる
  • 有名MECEのテンプレートを使うことができる
  • インパクトがあるビジュアルを作ることによって,表現を印象付け覚えやすく表示できる

※本記事のマインドマップ(手書きを除く)には,株式会社チェンジビジョンのJUDE/Think!とJUDE/Professionalを使っています。評価版は,下記のURLで入手できます。
http://jude.change-vision.com/jude-web/index.html

平鍋 健児(ひらなべ けんじ)
 株式会社チェンジビジョン代表取締役社長。株式会社永和システムマネジメント副社長。本連載の基になった『ソフトウエア開発に役立つマインドマップ チームからアイデアを引き出す図解・発想法』(2007年6月,日経BP社発行)を執筆した。