皆さんは「プロコン」というイベントをご存じですか? プロコンは正式名称を「全国高等専門学校プログラミングコンテスト」と言い,全国にある高等専門学校(以下高専*1)の学生が年に一度集まって,プログラミングやソフトウエアの開発能力を競う,言わば情報系の甲子園のような大会です。年々規模も大きくなり,最近は,ソフトウエア・ベンダーさんやシステム・インテグレータさんからも注目していただけるようになりました。

 筆者は,2002年から4年間にわたってこのプロコンに参加し,3回,最優秀賞にあたる賞をいただきました。といっても,あまり自慢できるような話ではありません。むしろ辛く,ときに恥ずかしい経験ばかりの4年間でした。

 今回から3回の短期集中連載で,筆者が経験した,ちょっぴり変わった学生集団によるソフトウエア開発の現場をご紹介したいと思います。若者ならではの無謀さと,ドタバタぶりを楽しんでいただければ幸いです。

なぜか変人,そしてシス研

 筆者が初めてパソコンに触れたのは1995年のことでした*2。もともと機械いじりの好きな子供ではあったのですが,パソコンだけはなぜか別格でした。なにが楽しいというわけではなく,とにかく“未知の機械”に触れていることが幸せだったのです。そういった経緯で「大学受験の勉強なんかより毎日コンピュータの勉強がしたい!」と高専への進学を決めました。どうせなら情報工学専門の学科がある高専をと考え,生まれ育った広島県福山市から離れた,津山高専の情報工学科へ進学することにしました(写真1)。

写真1●津山高専は岡山県の津山市にある。学生は約900人いる
写真1●津山高専は岡山県の津山市にある。学生は約900人いる

 高専には寮があります。そして,中学校卒業から親元を離れて,高専の寮で暮らす人には,なぜか変人が多いのが特徴のように思います。筆者が出会い,のちに一緒にプロコンに挑む戦友となる同級生も,そんな変人の一人でした*3。戦友は,図書館で「Xシステムライブラリ大全」を,やたら感激しながら読んでいたUNIX好きです。彼と筆者は,一瞬にして意気投合します。いつの間にやら二人で,彼の先輩が所属する「システム研究部」というコンピュータ系の部活に入部していました。

 このシステム研究部(通称シス研),入部した筆者が感じた最初の印象は「落ちこぼれパソコン部」でした。プロコンにも毎年エントリーはしていましたが,書類審査で予選落ちだったり,競技部門で初戦敗退だったり。部で利用できる予算も,野球部の年間80万円に対してわずか1万5000円。いわゆる日陰者的な存在でした。

 しかし,まぁ雰囲気はどうあれ,慣れてしまえば,アットホームで楽しい部活です。文化部で,しかもパソコン部のくせに,夏休みには学校に泊り込んで長期の合宿を行います(写真2)。実験室に畳を並べ,部員のパソコンを持ち寄って,共同生活をしながら,倒れるまでプログラミングをするのです。

写真2●津山高専シス研における夏合宿の様子。倒れるまでプログラミングするのが恒例
写真2●津山高専シス研における夏合宿の様子。倒れるまでプログラミングするのが恒例

はじめの一本

 そんな合宿でのある日のこと,部活の指導教官の先生から「倒れるほど遊ぶヒマがあるんやったら,実習用のタイピング・ソフト作ってくれへん?」とお願いをされました。津山高専では新入生の授業で,パソコンに慣れるために様々な基本操作を習います。その中にタッチタイプの習得もあります。

 そのとき筆者は,ちょうど趣味でタイピング練習ソフトを作っていました(写真3)。ちょっと自信もあったので「これどうですか?」と先生に見せてみました。すると,「あかん,全然あかん,そのへんのソフトと変わらんやん,つまらん」との答え。ショックでした。

写真3●著者が一人で作っていたタイピング練習ソフト「高専タイプトレーナー」
写真3_b
写真3●著者が一人で作っていたタイピング練習ソフト「高専タイプトレーナー」。主に実習の授業時間を使って作っていた

 しかし,よく先生の話を聞いてみると,先生が求めていたタイピング練習ソフトのイメージが少し見えてきました。例えば,学校には何十台もパソコンがあって,誰がどのパソコンを使うかわからない環境であること。さらに,これらの共用のパソコンに個人の成績データを保存するわけにもいかないことや,先生が全員分の練習状況を把握するのが大変なことも知りました。

 よく考えてみれば,身の回りのタイピング練習ソフトって基本的にはみんな個人用だし,どれもキャラクター物やゲームなどのエンターテインメント思考で,教育現場で使うには抵抗があります。また,「第一,せっかく友達と40人同じ教室で授業を受けてるのに,なんで一人ひとりが無言でパソコンに向かってカタカタしないといけないの?」と実習を受けるたびに思っていました。これらの問題を解決できれば,ちょっと面白いかもしれません。