ビジネスモデルの定義とWeb 2.0的サービスの希少性について野村 直之 今回はビジネスモデルの基本に立ち返り、その重要な構成要素である収入モデルについて、Web 2.0的なサービスの希少性を考えたいと思います。 前回の拙原稿では、「サービス化するだけでもWeb 2.0的企業に近づく」というティム・オライリーの、有名なWeb2.0に関する論文の結語を引用して、エンタープライズの“2.0化”の特徴を論じました。今回からは、さらに内容を掘り下げて、2.0化した企業のビジネスモデルについて論じたいと思います。まず、ビジネスモデルを構成する3つの要素を確認したうえで、収益モデルの中核である収入モデルについて考えます。 ビジネスモデルを構成する3つのモデルビジネスモデルと一言でいっても。その定義から、いろいろなものが考えられます。筆者が所属するビジネスモデル学会では、1年以上にわたって「ビジネスモデル」の定義を議論してきました。面白い議論ではありますが、簡単な作業ではありません。 例えば、営利法人だけでなく、非営利法人、団体にもビジネスモデルは存在します。非営利団体にとってもビジネスモデルは重要です。公益性の追求のためには、営利法人と同様の効率性の追求や技術革新によるサービスの品質改善などが、求められてもおかしくありません。 若干の異論はあるかと思いますが、これらの点を考慮して、今回の原稿では、ビジネスモデルについて、とりあえず以下のように定義したいと思います。 企業、団体がどのような事業活動をするかのモデルである。 図1に示すように、事業活動のモデルは、大きく3つのモデルに分けて考えることができます。具体的には、戦略モデル、業務モデル、収益モデルです。
戦略モデルは、事業体の存在意義、社会に対する使命、活動目的に照らした、ビジネスの大枠での着眼点や差異化ポイントを描いたものです。ターゲットとなる顧客(市場)を定義し、競合との差異化につながる付加価値を示します。 業務モデルは、戦略モデルを実現するための業務プロセスと、それを実現する具体的なオペレーションを記述したものです。いわゆるBPM (Business Process Modeling)に対応するといえると思いますが、特定の表現形式や言語に依存したものではありません。 その全体像(概要)と、プロセスの設計・構築手法を描いておくことで、必要な時に必要な変更を導けようにしておくのが望ましい姿かもしれません。 さまざまな要因によって目まぐるしく変化する事業環境に常に対応し続けるのは不可能だという意見もあります。個々の業務プロセスと、オペレーション(業務手順)、実行方法を描き尽くそうとすれば、膨大なものになってしまいます。 3番目の収益モデルが、一般に想定するビジネスモデルに近いものかもしれません。現実に、「ビジネスモデル」という言葉が、もっぱら収益モデルを指しているという議論もあります。収益モデルは、企業や団体の活動の利益を確保する仕組みであり、ビジネスの継続、発展に必要不可欠のものだからです。収益モデルは、売り上げ拡大のための収入モデルと、原価・経費節減のためのコストモデルからなります。双方にイノベーションの可能性があります。 一般に、収益モデルを描くに当たっては、1つの企業や団体と顧客間の収支のモデルを想定するのではなく、複数のステークホルダー(利害関係者)含めて、その是非を考える必要があります。全体のバリューチェーン(価値の連鎖)を理解せずに、最適化の方略、処方箋は書くことはできません。各ステークホルダーを結んだ線の上で、どのように金が動くのか。そのほかに、有償か無償かにかかわらず、物流や情報流などの動きにも注目する必要があります。 Web2.0的な収益モデルを考えるためには、まずこういった前提を理解する必要があります。 Web 2.0的なサービスの希少性有望な収益モデルを新たに考える際には、一般に、“何の希少性” に依拠したものかを考える必要があると言われています。 「1.0」の時代には、コピー可能なソフトウエアやデータなどデジタル材をパッケージングして疑似物財とし、その生産量をコントロールして、人為的に希少性を創出することが有益だと考えられていました。しかし、「2.0」でサービスの時代となると、異なった手法が求められます。 例えば「2.0」の時代の典型的成功パターンの1つは、大規模なデータの囲い込み、もしくはデータをまとめて管理する仕組み(所有しているのはその管理権、利用ライセンスや、メタデータだけであることが多い)そのもので、独占的地位を築く、というものです。このような大規模な仕組みは多数が並立するのが難しい。デジタルの世界で規模を争う競争の結果、希少価値が生まれるわけです。さまざまなデータなしでは、サービス提供も知的生産も継続的な娯楽もままならない時代になったと理解することもできます。これは、オライリーの言う「データは次世代のインテル・インサイド」を言い換えたものでもあります。 だからこそ、YouTubeの仕組みと、結果としての膨大なCGM(Consumer Generated Media)の動画の蓄積に高い値段が付くわけです。規模の大きささ自体が希少価値をもたらしているからこそ、日本語による付加コメントや動画検索などの派生サービスにも経済価値が生じてきたのです。 こう考えていくと、一見民主的に見えるWeb 2.0的な仕組みが、実は急速な寡占化のための巧みな仕掛けである、という経済原理が見えてきます。優れた技術、UIにより広範な支持を集めるという条件は付きますが、無料サービスに初期投資することが、稀少価値につながるわけですわけです。 何がITサービスに希少性をもたらすかについては、ほかにもいろいろな要素を考えることができます。例えば、可用性に象徴される高水準のSLA(Service Level Agreement)を低コストで提示できれば、希少性が生まれるのではないかと考えます。 ただネットの世界でこれを実現させるのは簡単ではありません。特にWeb2.0の世界では、ほぼ同様の機能を備えたサービスが無料で提供されています。より高機能で複雑な有償版を用意した際に、こちらだけ可用性を高めるのは難しいでしょう。相応の費用をかけて、サービスが停止した際の補償を考えるほうが現実的でしょう。この方法を取った場合には、希少性を生み出すことができず、価格競争に陥る危険を伴うことになります。 なお、「2.0」以前から言われている希少性の分類については、昨年、Watcherの拙コーナーで、持続性のあるビジネスモデルという文脈で取り上げました通りです。よろしければこちらをお読みください。 ITILが2.0化を考えるヒントに少し意外な印象を与えるかもしれませんが、筆者はITサービスに何が希少性をもたらすかを考える際、主に企業のITシステムの運用に関するベストプラクティスをまとめたITIL(IT Infrastracture Libraray)が参考になるのではないかと考えています。 ITILやITILの考え方を国際規格化したISO20000を用いれば、企業におけるITサービスが適正なサービス水準と対価(サービス組織の人員など)で提供されているかどうかを、定量的に把握することができるようになります。またITILでは従来、ハードウエア資源とみなされていたものも、サービスとして扱います。こういったITILの特徴を、商品企画やマーケティングに応用することが、「2.0化」の有望な手段という気がしているからです。 次回以降、「ITILとEnterprise2.0の意外な関係」について論じてみたいと思います。
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