プロジェクト内の各チームは,どうしても自チームの課題対応にばかり目が向いてしまいがち。それゆえ,プロジェクトへの影響が大きい「チーム横断型課題」への対応が遅れやすい。PMOは,こうしたチーム間の“連携不足”に目を光らせることが肝要である。

高橋信也
マネジメントソリューションズ 代表取締役


 システム開発が山場を迎えようとするころ,プロジェクトルームで,しばしば次のようなやり取りを見かけませんか?

プロジェクトマネジャ:「課題Xは,AチームとBチームで対応するのだよね。進捗状況を教えてくれる?」

Aチームリーダー:「Bチームがユーザーと詳細要件を詰めた後に対応しようと思っています」

Bチームリーダー:「まだ詳細要件は詰めていません。そもそも,どのように進めるかをAチームと一緒に検討しなければと思っていたところです」

プロジェクトマネジャ:「解決が進んでいないという状況は分かったけど,期限はいつなの?」

Aチームリーダー:「申し訳ありません。期限も確認できていません」

 AチームとBチームの両方で解決すべき課題について,両チームリーダーとも把握はしているが,何も対応していないというケースです。期限も不明なため,このまま放置すると,大問題に発展する可能性があります。このように「解決のオーナーシップをどちらが取るのか」という点について,プロジェクトマネジャがうまく指示をしないと,対応が遅れることがよくあります。

 このケースでは,お互いに相手チームの対応を期待していることが問題の原因です。相手任せの状態で,オーナーシップがないため,期限の把握もおぼつかないのです。チーム個別の課題に対応するだけでも忙しい中,わざわざチーム横断型の課題を拾ってオーナーシップを取り,多数のステークホルダーと調整を進めるのは難しいことです。他チームの対応を受動的に待ってしまう傾向もよく見受けられます。

 また,マネジメントへの進捗報告の際,チーム個別の課題が進まない場合,すべての責任は自チームにありますが,チーム横断型課題の場合は各チームの責任となるため,優先度を下げてしまう可能性もあります。言うまでもなく,チーム横断型課題は影響範囲が大きく,プロジェクトへのインパクトが大きいのですが,チームリーダーの意識は自チームの作業に向いているため,組織横断的な視点で見ることが難しいのです。先の例にある「Bチームがユーザーと詳細要件を詰めた後に対応しようと思っています」という発言にもつながります。

自チームで管理していない課題の優先度は低い?

プロジェクトマネジャ:「Cチームの課題管理表にある課題Yは,Dチームにも関係するの?」

Cチームリーダー:「えぇ,Dチームにも関係しますよ」

プロジェクトマネジャ:「Dチームの対応状況はどう?」

Dチームリーダー:「申し訳ありません。対応するのを忘れていました。いつまでの期限でしたっけ? これからすぐ対応します」

 これまた,よく見かける光景ではないでしょうか?

 課題YはCチーム側で管理しているのですが,Dチームにも関係しています。Cチームリーダーは,Dチームリーダーへ事前に対応を依頼しましたが,Dチームリーダーは対応を忘れている,というケースです。

 このケースでは,プロジェクトマネジャが機転を利かせ,Dチームの状況を確認することで発覚しました。しかし,これがなければ,対応期日にCチームリーダーがDチームリーダーへ確認し,大慌てすることになります。

 課題YのオーナーシップがCチームにあるため,CチームがDチームに対応を依頼しているのですが,Dチームは多忙な中,対応を忘れています。Cチームリーダーに余裕があれば,Dチームの対応状況を都度確認していたかもしれませんが,なかなかうまく行くことは少ないと思います。

「チーム横断型課題管理表」でPMOが解決を促進

 上記2つのケースが示すように,複数のチームが関連しているチーム横断型課題は,解決がなかなか進みません。このような障害を取り除き,チーム横断型課題の解決を促進していく方法として,「PMOによるチーム横断型課題管理表の作成」が挙げられます。

 これは,チーム横断型課題をPMOがリストアップし,重点管理していく方法です。チーム横断型課題管理表には,「主担当チーム」「関係チーム」「期限」欄を設け,必須記入項目とします。また,関係チームごとにアクションプランや進捗状況を記録できるようにすれば,詳細なトレース管理が可能になります。「主担当チーム」「関係チーム」欄により課題のオーナーシップを明確にし,「期限」欄により解決期限を明確にします。

 PMOがチーム横断型課題管理表を最新状態にメンテナンスすることで,チームの負担を最小限にとどめながら,チーム横断型課題のモニタリング・解決を促進していくことができます。また,多忙を極めるプロジェクトマネジャはすべての課題を把握できるわけではないため,プロジェクトへの影響範囲が大きい課題の進捗状況を最優先で把握する必要があります。

 チーム横断型課題は,プロジェクトの行方を左右する重要課題です。その管理は,プロジェクトマネジャの意思決定を促進させる上で必要なPMOの役割です。


高橋信也(たかはししんや)

 1972年福岡生まれ。修猷館高校を卒業した後,上京。上智大学経済学部卒。ゼミは組織論,日本的経営の研究。大学卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後,2001年よりキャップジェミニのマネジャとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。

 コンサルタントとしての外部の目からだけではなく,内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから,SONY Global Solutionsへ入社。その当時,最年少プロジェクトマネジャとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。

 コンサルテーションから,自社開発のソフトウエア提供,改革実施後のチェンジマネジメントまで,「知恵作りのマネジメント」を支援するマネジメントソリューションズを設立し,現在に至る。連絡先は info@mgmtsol.co.jp