Enterprise Resource Planningの略。「企業資源計画」と訳される。企業における人事(ヒト)、生産(モノ)、財務(カネ)といった主な業務に関わる資源を統合的に管理し、最適化することを通じて、株主価値および顧客価値を高めるビジネス戦略を指す。

 在庫管理業務を例に考えてみよう。店舗や倉庫の在庫管理担当者の観点では、在庫数量(モノ)の増減のみに注意を払っていれば良いとしても、経営的な観点からより統合的に捉えるためには在庫金額(カネ)の変化にも目を配る必要がある。その場合、モノの動きに連動してカネの情報が更新され、常に整合性が確保されていることが求められる。

 さらに、企業全体の在庫最適化を図るためには、情報の整合性のみでは不十分で、販売・生産・財務といった部門間の業務の連携と統合化が重要になる。ERPは、こうした課題に答える経営手法である。

 一般には、ERPの実践を支援する統合業務ソフトウエア・パッケージを意味し、「ERPパッケージ」というように記述する。ERPパッケージの源流を辿ると1970年代の生産計画系の業務ソフトウエアにまで遡るが、企業全体の業務の統合化を志向して発展を遂げた現在のERPパッケージは生産領域に留まらない様々な業務をカバーしている。主なものだけでも、以下のような機能が挙げられる。

人事系:人事管理/給与管理/勤怠・経費管理/採用管理 等
生産系:生産計画/品質管理/工程管理 等
財務系:債権・債務管理/固定資産管理/資金管理/財務レポート 等

 ERPパッケージの活用においては、大企業が先行している。ガートナーのITデマンド調査室が国内企業を対象に2006年5月に実施した調査によると、ERPパッケージを「利用中もしくは導入中」と回答した企業の割合は全体で3割程度だが、従業員数2000人以上の大企業では6割近くに上っている。大企業にとってERPパッケージはもはや「導入するか否か」という段階を超えて、「当たり前のもの」になりつつあるといえよう。

 ERPパッケージの導入効果としては、業務コストの削減、生産性や効率性の向上、情報システムの安定稼動といった現状の「改善」に対する期待が高い。さらに、優良企業の業務プロセスを雛型として取り込んでいるERPパッケージの導入をきっかけに、業務の抜本的な「改革」を進めようとする企業からも注目を集めている。

 ただ、概して、ERPパッケージの導入・運用には費用がかかる。同調査によれば、ERPパッケージを導入した企業が抱いている不満の第1位はソフトウエア・パッケージのライセンス費用であり、第2位が保守費用となっている。ERPパッケージの導入にあたっては、将来的な費用増を見越してパッケージを販売するソフトウエア会社と契約交渉をすることが重要となる。具体的には、導入後の利用者数の増加に伴うライセンス費用、保守期限延長に伴う追加費用、ソフトウエアのバージョンアップにおける移行費用などを考慮に入れる必要がある。

 一般的に、日本企業においては、現行業務に合わせた「手作り」の既存システムの機能を、ERPパッケージを独自にカスタマイズ(作りこみ)することで再現しようとする傾向があり、結果的に保守費用やバージョンアップにおける移行費用の増大が問題となるケースが見られる。ERPパッケージの導入を考えている企業は、「カスタマイズは最小限にして、業界で標準的な業務プロセスを導入する」というパッケージの基本思想に立ち返り、安易なカスタマイズは避け、業務上の重要性と後々想定される影響を吟味することが肝要である。

 ERPパッケージの世界市場を見ると、SAPOracleといった大手ソフトウエア企業が高いシェアを持つ。こうした大手は、他のソフトウエア企業やシステム開発企業とパートナー関係を強化しており、自社を中心とした「エコシステム(生態系)」を築きつつある。大手が提供する製品を基盤(土壌)に、他のソフトウエア企業が相互に連携可能な関連製品を提供する動きが進んでおり、その結果、顧客企業にとってはより「棲みやすい」環境が整備されるため、多くのパートナー企業と顧客企業を抱える大手がさらに優勢になる状況が生まれている。

 ソフト業界は歴史的に、企業の合併・買収が激しい所であり、ERPパッケージを使った経営強化を検討する場合には、パッケージの機能や価格のみに注目するのではなく、パッケージを開発・提供するソフトウエア企業のパートナー数、顧客企業数、財務状況、経営ビジョン、製品計画など複数の観点からチェックし、長期的に付き合うに足る相手か否かを見極める姿勢が求められる。

本好 宏次=ガートナー ジャパン リサーチ部門
エンタプライズ・アプリケーション担当 主席アナリスト)