UPSの社内には「建設的な不満」という文化が根付いている。前向きな批判なら、誰でも会社を批判して構わないという考え方だ。実はこの社風が、トラックの積み込みを効率化するシステム「パッケージ・フロー・テクノロジーズ」の導入に結びついた。累計で6億ドルを投じ、最近のUPSのIT(情報技術)分野では最大のプロジェクトだった。

 UPSは配達業界の最大手なので、周囲からは「なぜ、ITに大金を投じる必要があるのか」と疑問の声が上がった。しかし、「もっと配送効率が高まる」と“建設的な不満”がわき起こった。当社では、配達情報の97%はホームページなどを介して電子的に入る。この特性を生かし自動的に最適な積み込み手順を算出できる仕組みを作った。

トラックの“中”までIT化し、6億ドル削減

 まず、配達先ごとの住所や道路情報などが入ったデータベースを構築。その日の注文を基に配送時間が最短で済む配送ルートを算出する。配送経路が決まったら、トラックの運転手が配送スケジュールに沿ってスムーズに荷物を取り出せるように荷物を積まなければならない。それをコンピュータで算出できるようにした。最終的には、どのトラックのどの棚にどの順番でどの荷物を積み込めばいいかを書いてあるラベルを印刷するわけだ。

デイビッド・バーンズ氏
デイビッド・バーンズ氏

 システム導入前は、積み込み担当者が優秀でなければ、運転手が荷物を探すのに手間がかかり、ミスが増え、顧客からの信頼が低下した。だから積み込み担当者の訓練に1カ月以上かけていた。

 現在、米国の拠点に順次導入しており、2008年までには国内1000カ所以上の拠点に導入、10万人の従業員が活用する予定だ。今年2月に効果を測定したところ、輸送距離が190万マイルも減っていた。本格導入後は、年間輸送距離を累計1億マイル短縮し、1400万ガロンのガソリンを節約できると見ている。それは6億ドルのコスト削減につながる。二酸化炭素の排出量を減らせるので環境面でもメリットが大きい。

 配送効率を高めるうえでポイントとなるのが、世界8万8000人の運転手に持たせる携帯情報端末だ。ここにトラックの積み荷目録が自動的にダウンロードされる。端末には常に最新技術を取り入れるよう心がけ、現在の端末は4世代目に当たる。この端末にはGPS(全地球測位システム)を導入し、「オン・コール・ピックアップ」サービスに取り組んでいる。走っている最中にも顧客の注文を受けるサービスだ。GPSを使って、顧客の住所から最も近いところを走っているトラックを探し当て、運転手に指示を出して、荷物の集荷に向かわせる。今のところ、このサービスは欧州と日本で流行っている。

 運転手との情報のやり取りを円滑にするために、米国内の大規模な2つのデータセンターが受け取る注文は週12億件。データセンターの運営や情報システムの構築など、IT関連予算は年間約10億ドルで、ITに従事する社員は4700人に上る。

 この4700人を束ねるのが9人のポートフォリオマネジャー(PM)で、私に直接報告してくる。PMは月に1回集まり、「ITガバナンス委員会」を開く。一方、私はCEO(最高経営責任者)に直接報告する立場にある。幹部12人が集まる経営委員会にも参加し、月1回部門長などが集まる「プログラム事業監視委員会」で議長も務める。

 これから力を注ぎたいのが、国際貿易を強化するためのIT投資だ。特にインターネットを使ったサービスには力を入れている。例えば最近、海外発送のサービスレベルを向上するために「トレード・アビリティー」と呼ぶシステムを導入した。海外に荷物を送る場合、時間や値段がどのぐらいかかるか、税金はいくらか、どんな書類が必要かといった質問に即座に回答する。また、「クワンタム・ビュー」と呼ぶサービスは、税関の流れをパソコンで確認できるもの。例えば税関手続きのための書類に一部不備があったら、メールを使って修正できる。

 UPSは現業部門からIT部門への門戸を常に開いている。年に何回もIT担当者を募集し、興味のある人にはトレーニングも提供する。荷物を積み込むアルバイトからCIOになった私が典型例だが、UPSにはチャンスがある。UPSはIT幹部に生え抜き社員を昇格させるのが基本方針だ。それ以外に次世代のITリーダーを育てる方法はないだろう。

デイビッド・バーンズ氏 米UPS  上級副社長 兼 全社CIO
1956年米セイントルイス市生まれ。ミズーリ大学在学中の77年に、UPSで荷物積み込みのアルバイトを始める。卒業後UPSに入社し、情報サービス部門に配属される。サプライチェーンや金融システムの担当を歴任した後、2005年から上級副社長兼全社CIO。