モトローラは約140カ国・地域で事業を展開しているが、組織としては3つの事業ユニットと2つの機能ユニットに分かれる。

 この3つの事業ユニットにはそれぞれ「IT(情報技術)リーダー」がいる。一方、機能ユニットの1つは「コーポレート・サービス」と呼ばれ、財務や人事、法務、サプライチェーンなどを見る部門。もう1つは「CIO(最高情報責任者)室」と呼ばれ、インフラやセキュリティー、アーキテクチャー、品質などを監督する。ITリーダーとCIO室を統率するのが、CIOである私の役割だ。

 モトローラはこのところ順調に業績を伸ばしている。ここでもITは重要な役割を果たす。1つは営業利益率の拡大だ。例えば6月に、調達プロセスを統合するため、シンガポールにサプライチェーン・マネジメントのためのハブ施設を設立すると発表した。パートナーやサプライヤーとの間の取引を簡素化し、利益率を上げるのが目的だ。

 もう1つ、販売数量の増加に対してもITの寄与は大きい。典型例は新興市場の開拓だ。インドなどの巨大な新興市場でシェアを高めるには、優れた製品があるだけでは足りない。注文から流通、在庫補充までを効率的に進める物流機能が必要になる。

 また当社は今夏、ビデオオンデマンド技術のブロードバス(米マサチューセッツ州)の買収を決めたが、こうした買収、あるいは逆に事業売却を今まで多数実施してきた。統合や分離後の組織を早急にまとめ上げ、同時に、顧客に対し便益を供与するのも、重要なITの仕事になる。

10カ月で30カ国を飛び回り、課題探し

 今まで経験してきた消費財、産業用機器、小売り企業におけるCIO職と、ハイテク企業におけるその役割は基本的には変わらない。しかし、モトローラが大きく違うのはグローバル展開の程度だろう。私たちモトローラは「設計・配置モデル」と呼ぶ仕組みを採用する。

パトリシア・モリソン氏
パトリシア・モリソン氏

 CIOが世界各拠点が使うITのツールやアプリケーション、インフラ、データ定義、KPI(重要業績評価指標)などを設計し、ロードマップを描き、ガイドラインを決める。それを各地の各事業に権限委譲するやり方だ。だからコミュニケーションが非常に重要になる。私は60%の時間をグローバル組織とのコミュニケーションに割いている。

 2005年夏にモトローラCIOに就任して以来、2つのことに注力してきた。1つは課題探しだ。今後3~5年間のうちに現れるだろう課題を洗い出すため、過去10カ月間で約30カ国・地域に飛び、現地の社員と対話をした。2点目は、これらの課題に取り組むためのベストな人材探し。世界クラスのITリーダーシップチームを構築すべく、新規採用や組織変更などに相当な時間を費やした。

 今後3~5年間で戦略的に取り組みたい課題は3つある。第1はオペレーション上の「休止時間ゼロ」の追求。モトローラは、携帯電話などのネットワークインフラからデバイスまで、端から端までサービスを顧客に提供する。これを社内にも適用して“シームレスモビリティー”を実現することは極めて重要だ。

 第2は意思決定のスピードアップをITで助けること。第3はICタグのような「モノ対モノ」のコミュニケーションが急拡大するなかで、データを意味ある情報に落とし込むことだ。

 今、私はたまたまCEO(最高経営責任者)のエド・ザンダーズに直接リポートしているが、大切なのは誰に報告するかよりも、「意思決定のテーブル」に同席できているかどうかだ。仮にCFO(最高財務責任者)にリポートする立場にあったとしても、執行チームに参加していて、影響力を発揮する機会があれば何ら問題はない。

 当社のようなハイテク企業は技術系の人間が大多数を占める。そうしたなかでITチームの人材として最も必要なスキルはリーダーシップ。事業部が何を求めているか的確に聞き出し、実現に向けて部門横断的に人を動かさなければならないからだ。サプライチェーンの改善にも、商品開発やマーケティングの過程に通じていなくてはならない。

パトリシア・モリソン氏 米モトローラ 上級副社長 兼 CIO
米マイアミ大学で数学と統計学を専攻。米P&Gでシステム管理などに従事したのち、米GEインダストリアル・システムズでCIO。その後、食品会社の米クエイカー・オーツのCIOとして、米ペプシコによる同社買収後のシステム統合を指揮。米オフィスデポの執行副社長兼CIOを経て、2005年から現職。