最後のLesson4では,ルーティングについて見ていこう。

 ルーティングは,IPパケットの転送経路を決め,目的地に届ける一連の処理のことである。小包を配送することになぞらえて説明するとわかりやすいので,その例えを使ってルーティングのしくみを理解していこう(図4-1)。

図4-1●ルーティングの基本的な考え方
図4-1●ルーティングの基本的な考え方
IPパケットを小包,ルーターやレイヤー3スイッチを郵便局になぞらえて説明した。ポイントは,郵便局では最終的な住所(ホスト・アドレス)ではなく,おおまかな町単位(ネットワーク・アドレス)で配送先を把握していること。
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配送表を見ながら小包を転送

 ここで小包は当然,IPパケットを表す。図4-1では小包を届ける相手を「E町」の中の「3番地」としている。「E町」がIPアドレスのネットワーク部,「3番地」がホスト部に相当する。小包のあて先を示す荷札は,あて先IPアドレスに当たる。

 また,小包の配送先を決める郵便局がルーターに相当する。小包に付けられた荷札に書いてあるあて先の住所を見て,どの町に転送するかを決める。

 では,送信元の家からあて先の家まで小包がルーティングされる一連の様子をたどっていこう。

 最初に,A町にある送信元の家から,A町の最寄りの郵便局に小包が届けられる。

 各郵便局には,最終的な行き先と,次に送り出す道路がセットになった配送表が用意されている。郵便局は,小包のあて先にある住所のうち,どの町に配送すべきかを確認する。さらに,行き先の町に対応する道路を配送表から調べ,その道路から小包を転送する。この例では,E町行きの小包はC町へ続く道路(3)に転送することになっている。なお,B町経由でもE町に到達できるが,その道路は配送表にないので使われることはない。

 この配送表は,実際のIPの世界では「ルーティング・テーブル」と呼ばれる。ルーティング・テーブルには,あて先ネットワークとルーターの物理ポートがセットになって登録されている。ルーターはこの表を参照し,IPパケットの転送先を決める。

 C町を通って,次の郵便局に届いた小包。その郵便局も同様に配送表を見て,転送先を確認する。

 最終的に小包を届けるあて先の家は,その郵便局と道路でじかにつながっているE町にあるので,小包はその家に直接届けられる。

 ここまでの説明の中に,ルーティングのしくみを理解するためのポイントが二つある。

 一つは,ルーターが転送先を決める際に利用するのは,あて先IPアドレスのネットワーク部だけであること。今回の例で説明すると,小包を配送する際に「E町3番地」までを見るのではなく,「E町」という部分だけに着目する。

 もう一つは,ルーターは最終的なあて先のネットワークを把握しているわけではなく,次の転送先だけを知っていることである。

3種類のプロトコルがある

 ルーティング・テーブルの内容を登録する方法には,手作業でルーターに設定する「スタティック・ルーティング」と,ルーター同士が経路に関する情報をやりとりし,自動的に作る「ダイナミック・ルーティング」の2種類がある。

 ルーターが1台しかない家庭LANのような場合は,スタティック・ルーティングを使うことが多い。複数のルーターで構築したネットワークは,ダイナミック・ルーティングで運用する。その際にルーター同士の情報交換に使われるのが「ルーティング・プロトコル」と呼ばれるプロトコルだ。

 現在主に利用されているルーティング・プロトコルは「RIP」,「OSPF」,「BGP」の3種類。これらは,場所ごとにうまく使い分けられている(図4-2)。

図4-2●場所に応じて使い分けるルーティング・テーブルへの登録方法
図4-2●場所に応じて使い分けるルーティング・テーブルへの登録方法
手動で登録する「スタティック・ルーティング」と,ルーティング・プロトコルを使って自動的に登録する「ダイナミック・ルーティング」がある。主に使われているルーティング・プロトコルには,「RIP」,「OSPF」,「BGP」の3種類がある。
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