佐賀県最高情報統括監(CIO)の川島宏一さんは、建設省を経て、世界銀行上席都市開発専門官のキャリアを持つ。米国ワシントンには6年駐在。この間、マサチューセッツ工科大学で日本のODA戦略を研究した。その川島さんが突然、地方行政に身を置いた。そのキャリアチェンジに違和感を覚えていた私に、川島さんは熱く語る。

 「地域経済の自立こそが、今の日本で最も重要な課題だ。収入でも、地位でも、権力でも、影響力でもなく、世の中の流れのなかで自分の力を最も役に立ててくれるポストに就きたかった」

 利潤追求型企業でさえ、情報を経営的な視点でとらえるCIOのポストを置くことは珍しい。とはいえ、CIOは実際には知事や副知事が兼務している例が多い。民間から専任でCIOを採用した県は、佐賀県など数県にすぎない。佐賀県では、古川知事が業務改革と情報化を合わせた専任ポストの重要性を認識していたから実現したようだ。

 川島さんが、知事から与えられた課題は3つ。(1)IT(情報技術)最先端県庁の実現、(2)ブロードバンド世帯カバー率100%と実際の接続率50%の実現、(3)県内IT企業の育成と企業IT化の推進、誰でもパソコン10カ年戦略である。

 現在、この3カ条を9項目にブレークダウン。それぞれについて、あるべき姿、現状、目標、課題分析、対策アクションプランおよび評価方法をできる限り数値化かつ可視化し、作業の進ちょくを管理している。川島さんは、業務改革を伴わない、情報システムの導入はしないのが方針だ。

数字で説明がつかない投資はやらない

 費用対効果について、納税者の方々に簡単に数字をもって説明がつかないような投資は行わない。顧客(納税者、受益者)満足度を上げて、トータルコストを下げる。意思決定の過程をできる限りオープンに行う。私は、一般的にいって行政にはビジネス視点が欠落しがちと考えてきた。

 しかし、川島さんの使う言葉はビジネスそのものだった。「顧客満足度」「透明性」「システム構築には業務改革ありき」、これらの言葉に私は地方行政の可能性を感じた。川島さんは持ち前のパワーで自分自身の仕事の限界に挑戦する。「どこまでできるのか、敵は自分自身だ」と語った。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA