●検証済みのOSS群をセットにした「スタック」製品
●長期保守など、大規模SIに耐え得るサポートを用意
●ITアーキテクトも「外に出て業界標準に挑戦」との持論を実践

 セブンドリーム・ドットコムのEC(電子商取引)サイトをはじめとする大規模SIで、いち早くOSS(オープンソースソフトウエア)を活用してきた野村総合研究所(NRI)。OSSのミドルウエアを組み合わせた「OpenStandia」は、いわば門外不出だったそのノウハウを集約した製品だ。販売先はソリューションプロバイダが大半で、2006年8月の発売からサポート契約を結んだ同業他社は2ケタを超えたという。

 しかしNRIは当初、OpenStandiaを外販するつもりがなかった。開発責任者である寺田雄一オープンソースソリューションセンター(OSSC)長が外販を発案した時、上司を含めた大半の関係者が反対に回ったのである。

 「NRIのノウハウを流出させるべきではない」「採算が取れるのか」。寺田氏はこんな反対意見の嵐の中、OpenStandiaの事業化に奔走した。その執念を支えたのが、後にOSSベンダー各社との提携をまとめ上げる梶山隆輔氏や、OSSの評価・解析で腕を振るうことになる松野洋希氏といった“OSS部隊”の若手エンジニアたちだ。彼らの熱い思いが社内の厚い壁を押し開くことになる()。

図●OpenStandiaを支える主要メンバーと方法論を記した方式設計書
図●OpenStandiaを支える主要メンバーと方法論を記した方式設計書

社内ベンチャー制度で事業化

 寺田氏の専門は、オープン系の情報システムの設計において、ハード/ソフトの構造や実装方法を決める「方式設計」。いわゆる「ITアーキテクト」である。数々のSI案件の方式設計を手掛けただけでなく、2003年にはその“テクニック体系”といえる「方法論」も開発した。

寺田雄一● NRI 情報技術本部 オープンソースソリューションセンター長
寺田雄一● NRI 情報技術本部 オープンソースソリューションセンター長

 方式設計といえば、経験や職人技が幅を利かせていた属人的な分野。そこに方法論を持ち込むことで「設計手順を工業化し、品質や生産性を高める」(寺田氏)ことを目指した。この方法論はNRI社内に公開され、現在もSIの現場や方式設計の研修で使われている。

 OpenStandiaは、この手法をOSS向けに展開した方法論が源流だ。きっかけは2003年9月に当時台頭してきたOSSミドルウエアを社内で評価した結果、SI事業への活用を探る方針が出たことだった。

 アプリケーションサーバーの「JBoss」や開発フレームワークの「Struts」といったOSSの評価結果は良好だったが、課題も浮かび上がった。OSSを標準設定のまま使っても、まずうまく動作しない。ソフトのバージョンや設定を管理して、適切に組み合わせる必要があったのである。そこで寺田氏は、自らの方法論をOSS向けに開発し直すことにした。

 方法論を実践する場はすぐに来た。2003年末から2004年に、ある大手ネット企業やセブンドリームから相次いでOSSを活用したSI案件を受注。プロジェクトは成功し、OSSの実力と寺田氏の方法論の確かさが証明された。

 この実績を裏付けに、動作検証が済んだJBossやStrutsなどのOSSをあらかじめセットにして、より使いやすくした「スタック製品」がOpenStandiaである。「リリースから7年間の長期保守」「不具合は、個別案件でも原因を究明してパッチを提供」といった「エンタープライズ仕様」のサポートは、大規模SIでの活用実績を持つNRIならではといえる。

 ただし2005年8月の発表当時は、あくまで社内で活用する“NRI向け製品”にすぎなかった。「OpenStandiaを社内ノウハウで終わらせたくない」という寺田氏の思いは日増しに募る。2005年11月、寺田氏は社内ベンチャー制度を使って、OpenStandiaの外販事業を起業する提案に踏み切った。当時、寺田氏の元に同業他社から数多くの問い合わせが来ていたことが背中を押した。

 それにも増して寺田氏を駆り立てたのは、ITアーキテクトが“裏方”で甘んじることへの危機感だ。寺田氏は「社内で保護された技術はそのうちダメになり、身内にも使われなくなる。“裏方”も外に出て業界標準に挑戦すべき」という持論を持つ。今がその好機だ。

 社内で沸き起こる反対意見にはNRIのメリットを強調して説得に務めた。「外販すればノウハウの蓄積や不具合の改善も進む。成果はSI事業にも還元できる」。反対する上司を毎晩飲みに誘っては、自らの信念を語る日も続いたという。幸い社内ベンチャー制度の審査が先に通過し、最後は上司も折れた。翌年8月には晴れてOpenStandiaの外販が始まった。

 「社外に出たOpenStandia」はしっかりと結果を出しているようだ。サポート体制に対する高い評価は定着し、ユーザー数の伸びは加速しているという。2年目となる今年度は、早くも事業の黒字化が確実だそうだ。