世界のテレビ放送業界で話題に上り始めた,インターネットTV「Joost」。現在は英語版の試験サービスを提供していおり,早ければ年内には日本語や中国語など多言語サポートも始まる見通しという。CNNのような国際放送を目指すJoostだが,P2P方式による低コスト・サービスだけに,より広範囲で草の根的な普及が期待される。前編では,インターネットTVがもたらすグローバル・メディアの可能性をJoostを中心に考えてみる。


写真●インターネットTV「Joost」
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 Joostは,ファイル交換ソフト「Kazaa」やIP電話「Skype」の開発者として知られる,Niklas ZennstromとJunus Friisの両氏が次に手がけたビッグ・プロジェクトだ。Kazaaが音楽レコード産業を,Skypeが電話産業を根底から揺るがし,そのビジネスモデルの変革を促しているように,インターネットTVのJoostはテレビなど映像産業の将来に少なからぬ影響を与えると見られている。

 KazaaやSkypeと同じく,Joostもその基盤技術としてP2P(ピア・ツー・ピア)方式を採用している(厳密にはP2Pとクライアント・サーバー型のハイブリッド方式)。今はまだ試験サービスの段階だが,約180チャンネルの中から,ユーザーが好きな番組を選ぶと,それがストリーミング配信される。いわば「P2P方式のビデオ・ストリーミング」がJoostというサービスの定義である。あるいは「P2P方式のオンデマンド型インターネットTV」と呼んでもいいだろう。

 単なるビデオ・ストリーミング配信(インターネットTV)であれば,USENの「Gyao」を始め,これまでも多数のサービスが存在した。しかし,いずれもクライアント・サーバー型であるため,ユーザー(クライアント)が急増してサーバーへのアクセスが集中すれば,サービスにはおのずと限界が生じる。しかしP2P方式では,インターネットに接続された多数のPCが負荷を分散するので,ユーザーが世界全体に広がっても,原理的にはサービスが滞ることはない。これをJoostのようなビデオ配信サービスに応用すれば,単一企業による世界規模のテレビ放送(厳密には,もちろん「放送」ではなく「通信」)が可能となる。

 Joostが注目されている一因はそこにある。CNNのような例外を除けば,新聞社にしてもテレビ局にしても,従来のメディア企業は国内競争に専念すれば良かった。しかし世界的通信網のインターネットがどんどんメディア化するに伴い,「低コストのグローバル・メディア」とでも呼ぶべきサービスの誕生と,それによるメディア企業の国際競争の兆しが見え始めた。例えば,動画共有の「YouTube」には世界各国からユーザーが集まってきており,その分だけ各国内の動画共有サービスの利用者は奪われることになる。あるいは米NBC Universalは今後,自らの人気テレビ番組をネット配信する際に,外国語の字幕をつける予定という(2007年3月22日放送のNHK BS特集「インターネットと放送の新時代」より)。Joostはこうしたメディアの国際競争を加速する可能性がある。

 Joostはルクセンブルグやオランダに拠点を置いているが,これとは別にアイルランドに本社を置くBabelgumもJoostと同様,P2P方式のインターネットTVサービスを提供している。両者とも番組(ビデオ)は無料で視聴でき,収入は広告(CM)による。これは従来のテレビ放送と同じである。

 JoostとBabelgumの大きな違いは,後者にはCMスキップ機能(CMを飛ばして番組を見る機能)が付いていることだ(とはいえBabelgumは現在試験サービス中なので,まだCMがない。一方,Joostは試験サービス段階からCMが入っている)。しかしこの点を除けば,両者に大差はないので,以下ではJoostに絞って,そのサービス内容を簡単に紹介しておく。