Gartner, Inc.
Steve Prentice VP Distinguished Analyst
Nick Jones VP Distinguished Analyst
志賀 嘉津士 Research Director


 2010年までに,FORTUNE500の企業の80%が,今話題の「セカンドライフ」のような仮想世界に何らかの形でかかわることになり,2012年までには仮想世界内の活動は電子商取引ではなくコミュニティが主流になる――。これは,4月下旬にガートナーが米国で開催したシンポジウムで明らかにした将来予測だ。

企業が考慮すべき5つの法則

 リンデンラボが運営する「セカンドライフ」をはじめとする仮想世界は,この数カ月というもの目覚しい発展を遂げている。シンポジウムでは,この仮想世界に向き合う際に,ユーザー企業が考慮すべき5つの法則を掲げた。

 最初の法則は「仮想世界は単なるゲームではなく,別世界の出来事でもない」ということ。現在最も成功している仮想世界はゲームであるのは間違いないが,ユーザー自身が作成したコンテンツによって社会が形成されるのが従来のゲームとは異なる点である。3次元映像を使うゲームやオンライン・ゲーム,シミュレーション,Web2.0の世界を組み合わせたものと位置付けられるだろう。

 第2の法則は「どのアバターにも,その背後に実在する人がいる」こと。仮想世界のアバター同士のやりとりとはいえ,許容可能な振る舞いが求められる。アダルトやカジノ関連のサイトでは年齢制限があるように,何らかの強制力が働く場合がある。企業に属する人は,仮想世界での振る舞いが企業の評判につながることに配慮すべきだ。

 第3の法則は「積極的にかかわって価値を生み出せ」ということ。現在のブームを生み出しているのは,熱狂的な早期参加者である。しかし,このブームに乗らないと,将来的にも仮想世界において存在感を示すことはできない。ただし,使用許諾契約には注意を払う必要がある。資産やIP(知的財産)の保有は重要な問題なので,広いスコープでの管理が理想的である。

 第4の法則は「マイナス面を理解して対応する」こと。仮想世界には,信頼性や可用性,セキュリティ,プライバシー,なりすましといった問題が潜んでいる。特に戦略的に取り組むべき課題は,仮想世界における企業評価に注意を払うことである。

 第5の法則は「仮想世界への取り組みは長期戦である」こと。セカンドライフに代表される仮想世界は世間の関心を集める段階にあり,新規参入者が続々と登場している。しかし,ほかの技術と同様,いずれブームの後に来る「死の谷」に直面する。長期的に利用してもらえるユーザーをつかまえないと,サービス事業者の多くが市場から退出することになる。

取引よりもコミュニティ

 仮想世界は,技術的な進化の余地はあるものの,しばらくの間は社会的あるいは文化的なインパクトを与え続ける。今のところ最も成功しているアプリケーションは,協調作業ツールあるいは何らかのアイデアを潜在的な顧客に伝えるためのマーケティング・ツールである。研究機関や上位の教育機関で関心や利用が多いことを見ると,こうした領域では有効なツールであることがうかがえる。ユーザー企業としては,トレーニングや開発用のツールを使う場所として有効に活用できそうだが,利用環境と下支えする技術とを混同しがちなので注意が必要だ。

 企業ユーザーに対しては,このトレンドに注目し経験を積むべきであるが,周辺環境が成熟するまでは投資は控えることをお勧めしたい。将来的には,仮想世界における協調作業やコミュニティが強力な地位を占めることになると思われるが,その一方でトランザクション・ベースの商取引はすき間産業的な地位にとどまるものと予想している。とはいえ,仮想世界に参加する企業の多くがここ数年にわたってその中に価値を見いだすことと思われる。