いまからちょうど1年前。ITpro Watcherの人気コラム『東葛人的視点』の筆者である東葛人氏は,『「IT投資の成果が分からない」と平気で答えるCIOには驚いた』と嘆く一文を書かれた。あるコンサルティング会社が実施した「国内上場企業CIO意識調査」の結果,多くの回答者がIT投資の成果について「やや不十分」や「不十分」と答え,比率は小さいものの「(IT投資の成果が)分からない」という回答さえあったという。東葛人氏はこの結果に驚くと同時に,「結果責任を負わなければならないビジネスピープルが見ると,まことにうらやましい限り」と皮肉を込めて嘆いておられた。

 筆者がなぜ1年も前の記事を再読する気になったかというと,近く「マネジメント」サイトで,「IT投資」をテーマとする連載を開始することになり,その筆者であるコンサルティング会社の方と議論させていただくなかで,「IT投資の成果」についていろいろ考えさせられたからだ。

 東葛人氏は「当たり前だが,CIOやIT部門はIT投資や情報システムに直接の責任を負う」としたうえで,「通常,こうした投資効果の伴わないシステムを作ってしまった場合,CIOや情報システム部門は,開発にあたったITベンダーを悪者にする」と指摘。「投資効果に疑問符が付く、あるいは投資効果が全く分からないシステムを、エンドユーザーにせっせと提供し続けている」ことの無責任さを痛烈に批判している。

 最近では,ガートナー ジャパンが公表した「国別IT投資マインド・ランキング」でも,日本企業のIT投資に関する厳しい状況が浮き彫りになった。各国の企業のIT投資に対する意欲を7項目に分けて調査した結果,(2)IT予算の対年商比率,(3)CIOを設置している比率,(4)経営陣がITの重要性を十分理解している比率,(5)攻めのIT投資(競争優位の獲得を目的としたIT投資)の4項目,および,総合ランキングで日本が最下位になったというのだ。

 これらの調査結果から,日本企業はIT投資に消極的だと憂えたり,日本のCIOやIT部門はIT投資に対する意識が低いと嘆いたりすることは簡単であろう。しかし,前述したコンサルティング会社の方との会話のなかで筆者は,そもそもCIOが認識するべきIT投資の「成果」とは何か,経営陣が理解すべきITの「重要性」とは何か,ということを問われ,事は単純ではないと思うようになった。

 筆者がこのコンサルタントの指摘で一番はっとさせられたのは,「日本では,システムの“効率性”と“有効性”がゴッチャに議論されており,両者を混同しているCIOも多い」という一言だった。システムの効率性とは,システムの投資額や開発期間,処理性能や耐障害性といった測定可能な指標のこと。これに対してシステムの有効性とは,システムが事業にどれだけ貢献しているかの指標である。

 このコンサルタントは「IT投資の妥当性や効果を計る判断基準として,すぐに“有効性”を思い浮かべる人が多い。しかし,事業に貢献しているかどうかはシステムだけで決まるものではないし,有効性を横並びで比較することもできない。それよりも,CIOがまさに責任を持って向上に努めるべきものはシステムの効率性だ。その責任を放棄するCIOは必要とされないだろう」と話す。なるほど。告白するが,筆者も状況や場面によって両者を混同していた。

 では,この“効率性”の観点からみて,日本企業のIT投資は具体的にどこが良くてどこが悪いのか。これについては,7月開始を目標に準備を進めているマネジメント・サイトの連載企画のなかで,実例を挙げながら詳しく分析していただく予定である。CIOやIT部門のマネージャ,そしてIT投資を含むマネジメントに興味をお持ちの読者の方々は,是非お楽しみにしてください。