ここでは,中規模ネットワークのアンケート結果について,詳しく分析する。

WANはインターネットVPNが一般的

 中規模ネットワークのユーザーが導入しているWANの種類について,回答をまとめたのが図3-1である。

図3-1●WANサービス
図3-1●WANサービス

 中規模ネットワークで使われるWANは,インターネットVPNの利用が多かった。理由を自由記入欄から探ると,「コストが安い」という声が大部分を占めた。中規模ネットワークに限らず,小規模や大規模のネットワークでもインターネットVPNを選んだユーザーの理由は,「コストの安さ」がほとんどだった。

 小規模ネットワークと違って,中規模ネットワークでIP-VPNの利用が伸びなかったのは,二つの理由が推測できる。一つは,企業の規模が大きくなるので,ネットワーク技術に詳しい担当者がいる割合が高く,インターネットVPNを利用するための機器設定が可能なのではないかということ。もう一つは,中規模ネットワーク向けには,小規模ネットワークで利用が多いフレッツ・グループアクセスやフレッツ・グループのような,手頃な料金のIP-VPNサービスがないことだ。

 実は,フレッツ・グループアクセスおよびフレッツ・グループには,それぞれ2種類のメニューがある。フレッツ・グループアクセスの「ライト」およびフレッツ・グループの「ベーシック」は,低料金だが1拠点にIPアドレスが一つだけなどの制約がある。フレッツ・グループアクセスの「プロ」およびフレッツ・グループの「ビジネス」は,割高になるが1拠点にサブネット単位でIPアドレスを割り当てられるなど,設計の自由度が大きい。ある程度規模が大きいネットワークで,LAN間接続のVPNとして利用する場合は,後者の「プロ」および「ビジネス」を選ぶ必要がある。

LANの基幹はレイヤー3スイッチとギガイーサで構成

 LANの構成や帯域について,アンケート結果をまとめたのが,図3-2~図3-4である。

図3-2●LANの階層構成
図3-2●LANの階層構成
※グラフ中の「L3」はレイヤー3スイッチ,「L2」はLANスイッチ,「PC」はパソコンを表している

図3-3●LANの基幹回線
図3-3●LANの基幹回線

図3-4●LANの末端回線
図3-4●LANの末端回線

 図3-2で示したLANの構成に関する回答結果を見ると,階層数にかかわらず,基幹となるスイッチにはレイヤー3スイッチを利用するケースが多かった。自由記入欄を見ると,フロアや部署ごとにVLANやサブネットを分けるためという理由が目立った。パソコンの台数が100台を超えると,VLANやサブネットを利用したネットワーク設計が必要になるのだろう。

 図3-3のLANの帯域については,基幹はギガビット・イーサネットが53%と,100Mビット・イーサネットの44%を上回った。パソコンの台数が増えることによるトラフィック量の増大を考えるとギガビットの利用が多いのは当然だが,100Mビット・イーサネットもまだまだ利用されている。

 図3-4に示したように,LANの末端の帯域は,小規模ネットワークと同様,中規模でも100Mビット・イーサネットが大半だった。

その他のアンケート結果

 今回のアンケートでは,このほかに以下のような項目についても調査した。

  • ネットワーク構築・更新の実施時期
  • ネットワークの構築・更新の実施理由
  • 最新ネットワーク技術の導入状況
  • WANでのQoSの実施状況
  • LANでのQoSの実施状況
  • VLANの導入状況
  • 冗長化の導入状況
  • 認証システムの導入状況

 これらの,中規模ネットワークのユーザー企業に関する結果について,ここでまとめて紹介しよう。

 図3-5は,ネットワーク構築・更新の実施時期についてまとめたもの。小規模ネットワークと同様,直近の2006年が最も多いという結果になった。

図3-5●ネットワークの構築・更新を実施した時期
図3-5●ネットワークの構築・更新を実施した時期

 図3-6では,ネットワークの構築・更新の実施理由をまとめている。最も多かった理由は,「古くなったネットワーク設備の全面更新」である。これも,小規模ネットワークと同じ結果である。続いて,「帯域増強のためLAN内の装置を変更」,「帯域増強のためインターネット用アクセス回線を変更」,「新規サービスを開始/サービス内容を変更」といった理由が多かった。

図3-6●ネットワークの構築・更新を実施した理由
図3-6●ネットワークの構築・更新を実施した理由

 図3-7は,最新ネットワーク技術の導入状況である。「無回答」の回答数が,小規模ネットワークの186に比べ,中規模ネットワークでは90と大きく減っている。つまり,新しいネットワーク技術の導入に,より積極的ということが言える。その中でも,UTM(unified threat management)の導入が顕著だった。

図3-7●最新ネットワーク技術の導入状況
図3-7●最新ネットワーク技術の導入状況
*各用語の説明

 図3-8図3-9はそれぞれ,WANとLANでのQoSの実施状況をまとめている。小規模ネットワークと同様,中規模ネットワークではWANとLANの両方で,QoSを導入しているケースは少数だった。ただし,QoSを導入しているケースは,中規模ネットワークの方が確実に増えている。とくに,WAN回線でIP電話の音声パケットにQoSを適用する例が15%にも上った。

図3-8●WANでのQoSの実施状況
図3-8●WANでのQoSの実施状況

図3-9●LANでのQoSの実施状況
図3-9●LANでのQoSの実施状況

 図3-10は,VLANの導入状況を示している。VLANを利用していないケースが過半数を割り,利用しているケースが多くなっている。そのなかで,「部署やフロアごとに通信範囲を分けるために利用」というのが,VLANの利用方法として最も多かった。

図3-10●VLANの利用状況
図3-10●VLANの利用状況

 図3-11は,冗長化の導入状況である。小規模ネットワークに比べて,中規模ネットワークでは「無回答」が減っている。これは,何らかの冗長化手法を導入しているケースが多いことを示している。とくにスパニング・ツリー・プロトコル(STP)の利用が多かった。

図3-11●冗長化の実施状況
図3-11●冗長化の実施状況

 最後の図3-12は,認証システムの導入状況についての結果である。小規模ネットワークに比べて,中規模ネットワークでは導入していないケースは大きく減り,何らかの認証手段を採用している企業が多いことがわかる。とくに,「Active Directoryによるドメイン認証を導入」という回答が多かった。

図3-12●認証システムの導入状況
図3-12●認証システムの導入状況