企業ネットワークの構築や更新の際に参考になるのは,実際に運用され,稼働実績のある企業ネットワークの構成だろう。多くの企業が採用している通信サービス,ネットワーク機器,LANやWANの構成がわかれば,それを踏襲するのが,安全で確実な方法と言える。

 そこで,日経NETWORKでは,企業ネットワークの構築に実際にかかわった担当者にWebを利用したアンケートを試みた。最終的に679名の企業・団体のネットワーク担当者から回答を得た。そのアンケート結果から最新企業ネットワークの典型的な姿を明らかにしていく。

 アンケートで尋ねたのは,以下の15項目である。

(1)WANサービスの種類
(2)LANの階層構成
(3)LANの基幹回線の帯域
(4)LANの末端回線の帯域
(5)インターネット接続のアクセス回線の種類
(6)内線
(7)外線
(8)ネットワーク構築・更新の実施時期
(9)ネットワークの構築・更新の実施理由
(10)最新ネットワーク技術の導入状況
(11)WANでのQoSの実施状況
(12)LANでのQoSの実施状況
(13)VLANの導入状況
(14)冗長化の導入状況
(15)認証システムの導入状況

 今回は,これらのアンケート結果をネットワークの規模別に分析してみる。ネットワークの設計や運用・管理の手法は,そのネットワークの規模によって異なるからだ。具体的には,パソコンの接続台数ごとに,「1~100台」,「101~500台」,「501台以上」──の三つに分け,それぞれ小規模ネットワーク,中規模ネットワーク,大規模ネットワークとした。今回のアンケートに寄せられた回答では,小規模ネットワークが303件(45%),中規模ネットワークが185件(27%),大規模ネットワークが177件(26%)という結果だった(図1-1)。

図1-1●企業でのパソコン接続台数
図1-1●企業でのパソコン接続台数
ネットワークの規模を決める大きな要因は,接続される端末の台数である。今回は,パソコンの台数によって,ネットワークの規模を分類することにした。(1)1~100台を「小規模ネットワーク」,(2)101~500台を「中規模ネットワーク」,(3)501台以上を「大規模ネットワーク」とする。回答数は小規模ネットワークが最も多い。

 前述のアンケート結果のうち(1)~(7)のトップ回答を組み合わせて,規模別に企業ネットワークを構成してみたのが,図1-2~図1-4である。これらの図は,小規模,中規模,大規模ネットワークの典型的な姿と言えるだろう。

図1-2●小規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図1-2●小規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図中のネットワーク構成は,アンケート結果の第1位を組み合わせたもの。LAN内は100MのLANスイッチのみを用いて,フラットに構成する。拠点間の接続にIP-VPNの利用が多かったのは意外だったが,自由回答欄を見ると,フレッツ・グループアクセスおよびフレッツ・グループを利用しているケースが多いようだ。
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図1-3●中規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図1-3●中規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図中のネットワーク構成は,アンケート結果の第1位を組み合わせたもの。たくさんのパソコンを収容するため,基幹部にギガビット対応のレイヤー3スイッチ,末端にLANスイッチを使う。拠点間接続の定番は,インターネットVPNである。
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図1-4●大規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図1-4●大規模ネットワークのアンケート結果と一般的な構成
図中のネットワーク構成は,アンケート結果の第1位を組み合わせたもの。たくさんの端末を収容するため,レイヤー3スイッチを2段にして多くのサブネットを設定している。この規模のネットワークでは,拠点間接続に広域イーサネットやIP-VPNを利用するのが一般的。
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 小規模ネットワークでは,WANとしてIP-VPNが最も多く使われている。ただし,これは比較的高い料金の従来型IP-VPNではなく,NTT東日本やNTT西日本が提供する低料金の簡易型IP-VPNのケースが多いようだ。LANについては,レイヤー3スイッチは導入せず,LANスイッチのみで構築,サブネットが一つという,フラットな構成になっている。

 中規模ネットワークの場合,WANに最も多く使われているのは,インターネットVPNである。LANでは,1台のレイヤー3スイッチを中央に置き,その配下にLANスイッチをつなぐ構成が多い。

 大規模ネットワークでは,WANとしてよく使われているのは,広域イーサネットとIP-VPNである。LANは,レイヤー3スイッチを2階層にして,たくさんの端末を収容するようにしている。

 次回からは,ネットワークの規模別に,アンケート結果を詳しく紹介していこう。

アンケート方法

今回の調査は,日経NETWORKが,2007年3月13日~4月1日の期間,「企業ネットワークの構成に関するアンケート」と題して実施した。回答者の総数は679人。

 アンケートは,回答を入力するWebページを用意し,そのページのURLを回答者に告知するという形で実施した。告知に利用したのは,本誌読者のうち,日経BP社のメール・サービス「日経BPパスポート」の登録ユーザーに送った「アンケートのお願い」,本誌読者に月1回発行しているメール・マガジン「日経NETWORK倶楽部メール」,および2 種類のメール・マガジン「ITproメール」と「ITpro SkillUPメール」である。ほかに,日経BP社の技術系ニュース・サイト「ITpro」のトップページにもリンクを用意した。なお,アンケート対象者が「企業ネットワークの設計や運用・管理の担当者」であることは回答ページで知らせた。