秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 前回までは、自社の特性を無視し教科書通りの内部統制を行うことで発生するさまざまな問題点について指摘してきました。しかし、内部統制はデメリットばかりではありません。逆に、使い方次第ではとても役に立つ経営ツールとなるのです。今回からは内部統制の上手な使い方について、具体的な事例を中心にご紹介していきましょう。

 J-SOXが導入されるにあたり、そのメリットとしてよく挙げられるのが「ルールの統一化」です。バラバラのルールをそのまま放置しておくと、例外処理が多発し、コストアップやミスの原因になりがちです。そこでSOX対応に合わせて、ルールを統一化してしまおうということです。(SOX対応の文書も一つですみます。)

 全国に数百店を店舗展開しているある企業では、ほぼ店舗の数だけ違った支払い形態が存在していました。というのは、土地だけ借りて自社で上物を建て運営を行うというシンプルな直営形態だけでなく、土地オーナーに店舗も建ててもらったうえでその企業が運営するというやり方があったり、土地オーナーが店舗も建てたうえで運営もし、そこに対して指導をするといった形の店舗があったりと、個々の店舗とオーナーの事情に合わせて別々の契約を結んでいたからです。したがって、オーナーとのお金のやり取りの形態もバラバラとなります。ある店では売上の一定割合が定期的にオーナーへ支払われたり、別の店では売上から原価とオペレーション費用を引いた額を折半するような形だったり…。

 店舗開発の人たちにとって、異なる支払い形態が店舗の数だけ存在することは大いなる自慢になっていました。「俺たちがオーナーを口説き落とし、開店にこぎ着けた苦労の結実」だからです。確かにオーナーさんたちとタフな交渉をして契約にこぎつけ、多くの店舗を開店させたことは立派なことなのですが、内部統制の視点からみるとかなりひどい状態です。なぜなら、一店ごとに支払いの計算式が異なるため、全体としていくらの支払いになるのか容易に把握できないからです。しかも、実際の計算は経理の人が表計算ソフトで各店ごとに異なる計算式に数値を入力して行うため、膨大な手間がかかる上に間違いが起こりがちでした。ここでいう間違いとは単なる入力ミスだけでなく、誰かが計算式を勝手に書き変えてしまうリスクまで含んでいます。

 この企業のように「取引先の要望に応えるには柔軟性が必用」といって契約内容が統一化されていないケースは少なくありません。しかし、実際の契約内容を見ていくと、どのような場合でも大きく分ければ5つくらいのパターンに分類できるものです。そうであれば、5つ程度の標準パターンをつくり、イレギュラーな条件がどうしても必用なときでも標準パターンに少し手を加えるような形でやっていくほうが、圧倒的に手間や間違いは少なくなります。