ネットワークの存在が前提となるシンクライアントは、1台ですべての処理を完結させるパソコンとは違う。導入を進めるにあたっては、シンクライアントの特徴を考えることが重要だ。
シンクライアントを実現する方法には「サーバーベースド・コンピューティング(SBC)」、「仮想パソコン」、「ブレードPC」、「ネットブート」の4種類があり、それぞれにメリットとデメリットがある(図3)。
図3●シンクライアントはパソコンからデータ記録機能とプログラム実行環境を取り除いたもの |
業務に最適な方式を選ぶ
SBC方式は、クライアント・アプリケーションをサーバー上で実行して、処理結果の画面情報のみをクライアントに転送するもの。端末は画面表示とデータの入力だけを担う。2CPUのIAサーバー1台で、同時に30~40台程度が利用できる。
「複数ユーザーが同じサーバーに接続してアプリケーションを実行するため、通常のパソコンに比べてソフトウエア・ライセンスの効率的な利用が可能となる」(シトリックス・システムズ・ジャパンの竹内裕治プロダクトマーケティング統括部長)。
ただし、複数のユーザーが利用することになるため、独自に開発したようなアプリケーションのなかには正常に動作しないものもある。
SBC方式を実装する場合には、Windows Server 2003の標準機能となっているWindowsターミナルサービスや、シトリックスのミドルウエアであるCitrix Presentation Server(旧MetaFrame)を使うのが一般的だ。
それぞれRDP(Remote Desktop Protocol)、ICA(Independent Computing Architecture)という、画面転送に特化したプロトコルを用いる。ICAはRDPに比べてデータの圧縮率が高いが、いずれも動画や3次元CAD など画面遷移の激しいアプリケーションなどの処理に弱い。
仮想パソコン方式は、ブイエムウェアの「VMWare」などの仮想化ソフトを利用して、サーバー上に複数の「仮想のパソコン」を作って、パソコンを1台のサーバー上に集約する。この方式は、2CPUのIAサーバー1台で10数台の仮想パソコンを作ることができる。
それぞれの仮想パソコンに、Windowsやアプリケーションをインストールして、ユーザーごとのWindows環境を構築。ここで実行した結果の画面をクライアントに転送する。仮想パソコン方式も、RDPプロトコルを画面転送に用いる。
ブレードPC方式は、その名の通り、パソコンの機能を1枚のボード(ブレードPC)に収納し、データセンターに集約するもの。「1枚のブレードPCを1 台の端末で占有するので、通常のパソコンとほぼ変わらない環境が利用できる」(日立製作所の岡田純セキュアユビキタスソリューションセンタ長)。その一方で、導入規模が増えると、設置スペースが大きくなったり導入コストが高くなったりする面がある。
ブレードPCとユーザーが実際に使う表示用の端末をつなぐ方法はメーカーによって異なる。日本HPや日立の場合、ユーザーが直接操作するシンクライアント端末を用意して、ブレードPCの実行結果を端末に画面転送する。日本HPはプロトコルにRDPを、日立は独自のものを用いる。
複数の方式を組み合わせる
上記の三つの方式は、いずれもクライアント側が画面表示とキーボードやマウスによる入力だけを受け持ち、プログラムの実行やデータの保存はデータセンターで処理する。
調査会社のアイ・ティ・アールの三浦竜樹シニア・アナリストは、「現時点では導入コストの低いSBC方式が最も一般的だが、自社開発のアプリケーションを使う場合など動作検証が必要なケースがある。特定のアプリケーションだけを使うような場合にはSBCを使い、そうでない場合にはブレードPCや仮想パソコンなどを併用するのが現実的な判断だろう」と話す。
残るネットブートは上記の三つとは仕組みが異なる。OSとアプリケーションを、ハードディスクを持たないクライアント機にダウンロードしてローカルで実行する。データはデータセンターにアップロードして保存する。
クライアントで一括してアプリケーションの処理と画面表示を実行するため、通常のパソコンとまったく同じ感覚で利用できる。ただ毎回、利用にあたってOSとアプリケーションをダウンロードするため、広帯域のネットワークが現実には不可欠になる。
ネットブート型を選んだ企業は、パソコンと同等の性能を確保したり、周辺装置を使い続ける必要があるケースが多い。外為どっとコムの大嶋副部長は、「数秒のロスが為替取引では収益に大きく影響する。シンクライアントを導入しても、パフォーマンスを落とすことは許されなかったので、ネットブートを選んだ」と話す。