パソコンの普及から十数年,ようやく企業が業務に最適な端末を真剣に考え始めた。ここに来て,ソフトの配布・更新,セキュリティ対策,移設や置き換えなどを考慮し,あえてパソコンではなくシンクライアントを導入する企業が急速に増えている。

 大和証券は、現在全社で利用している約1万3000台のクライアント・パソコンのうち1万台を撤廃。シンクライアント導入に踏み切る(図1)。まず 2006年10月に、システム企画部に約140台を導入。07年9月までに本部にある1900台弱のパソコンのうち、1400台弱を順次、NECのシンクライアントに置き換えていく。

図1●大和証券は全社1万台のシンクライアント導入に踏み切る
図1●大和証券は全社1万台のシンクライアント導入に踏み切る [画像のクリックで拡大表示]

 同社の鈴木孝一執行役員は、シンクライアント導入を決断した理由についてこう語る。

 「これまでは、個人がデータを持ちさまざまな処理を実行することが、企業の生産性向上に寄与するという考えでパソコンの導入を進めてきた。だがそろそろ、センター集中型に戻る時期に来ているのではないか。シンクライアントを集中管理することで、データをセンター側に保存できるだけでなく、現在使っているOSやアプリケーションを正確に把握できるようになる」。

 今回のシンクライアント導入コストは、端末1台当たりに換算すると日経コンピュータの推定で20万円前後と、通常のパソコンの2倍近くになる。

 それでも鈴木執行役員は意に介さない。「企業の情報端末には、災害時の業務継続の実現やセキュリティの確保が求められる。単純なハードの導入コストだけで判断すれば高いように見えるが、パソコンの運用にかかっていたコストがなくなるのだから、むしろクライアントにかかるTCO(所有総コスト)は下がる」(同氏)。

 同社は、05年から現在あるシンクライアントの実現方式を比較して検討を重ねた。最終的に、仮想化技術を使ってサーバー上で仮想的なパソコン環境を構築する「仮想パソコン」方式を選択した(方式の詳細は第2回を参照)。

 大和証券では、「05年10月にはシステム企画部に試験的に導入。そこで通常のパソコンと並行稼働させて、業務要件を満たせるか検証し、十分実用に耐えると判断した」(鈴木執行役員)という。

 大和証券は、本社への導入によりシンクライアント導入のノウハウを蓄積。2009年までに全国120の支店への展開を終える予定だ。

セキュリティが導入を後押し

 大和証券だけではない。パソコンと異なり、シンクライアントは内部にデータを持たないので、端末から情報が漏れないという特徴がある。個人情報漏えいへの危機意識が強い金融機関や自治体はいち早く、シンクライアントを導入している(表1)。この動きは07年に入っても活発だ(表2)。

表1●シンクライアント導入に踏み切った主なユーザー企業の取り組み
表1●シンクライアント導入に踏み切った主なユーザー企業の取り組み  [画像のクリックで拡大表示]

表2●2007年にシンクライアント導入に踏み切った主なユーザー企業の取り組み
表2●2007年にシンクライアント導入に踏み切った主なユーザー企業の取り組み [画像のクリックで拡大表示]