第3世代携帯電話(3G)事業者とそのグループ会社は免許方針案で対象外となったものの,参入の芽は残っている。

 免許方針案では免許の交付対象となる事業者の条件として,(1)3G事業者ではないこと,(2)3G事業者との間で出資比率が3分の1以上の関係にある親会社や子会社,兄弟会社ではないこと,(3)3G事業者とその関係会社の出資比率の合計が3分の1以上ではないこと--といった点を規定している(図1)。「3G事業者による直接の関与を完全に排除する内容」(ある3G事業者)と言える。

図1●免許交付の対象外となる条件
図1●免許交付の対象外となる条件
第3世代携帯電話(3G)事業者とその関係会社(親,子,兄弟)は申請できない。3G事業者とその関係会社(親,子,兄弟)の出資比率が合計3分の1以上の共同出資会社も対象外となる。「親の親」や「子の子」(孫)も親子関係と見なす。
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 しかし,裏を返せば,3G事業者とそのグループ会社の出資比率が3分の1未満であれば間接的に参入できる。免許交付の条件にはMVNO(仮想移動体通信事業者)への設備の貸し出しが含まれているので,3G事業者がMVNOとなってサービスを提供することも可能である。

 今のところ,3G事業者が諦めた様子はない。NTTドコモは「免許取得の方針自体は変わらない」とする。ソフトバンクモバイルも「3分の1未満の出資で積極的に免許取得を狙いたい。現在あらゆる可能性を検討している」。イー・アクセスも「免許方針案の公表後も参入意欲は変わっていない。何らかの形で免許獲得を目指している」。KDDIは今後の方針を明らかにしていないが,これまで最も力を入れてきた3G事業者だけに,そのまま引き下がるとは考えにくい。

アッカとウィルコムは有力候補だが・・・

 一転して有力候補に浮上したのが,モバイルWiMAXを推すアッカ・ネットワークスと次世代PHSを推すウィルコム。総務省が2006年12月に免許取得希望者を集めて開催した「BWAカンファレンス」には14の企業・地方自治体が参加したが,固定通信の希望者,3G事業者とそのグループ会社を除くと,移動通信用は上記2社だけになる。

 とはいえ,この両社も決して安泰とは言えない。参入には膨大な設備投資を伴うからだ。免許を交付された事業者は3年以内にサービスを開始し,全国で10%以上の人口カバー率を達成しなければならない。さらに5年以内に全国の各総合通信局のエリア・カバー率を50%以上にする必要がある。前者の「10%の人口カバー率」は東京や名古屋,大阪などの都市部を中心に展開することで達成しやすいが,後者の「50%のエリア・カバー率」は全国展開が必須で,ビジネスの採算性を含めて事業者に大きな負担がのしかかる。

 アッカ・ネットワークスはBWAカンファレンスで,設備投資額は約2000億円とする試算を発表している。同社はこの試算を「基地局展開だけのコストで,都市部と郊外部のカバー率は50%未満を想定したもの。あくまでも免許方針案が出る前のもの」と説明する。設備投資は想定するビジネスモデルによって変わるので一概に判断できないが,3G事業者やメーカーの意見を総合すると数百億円のレベルではなく,数千億円のオーダーになるという。

 この額は数兆円近くの売り上げをたたき出す大手3G事業者でなければ不可能な数値であり,通常の企業が投資できるレベルではない。アッカ・ネットワークスの2006年12月期の売上高は388億2900万円で,営業利益は18億8000万円。財務状況は免許交付時に重要視されるポイントの一つとなっており,相当な出資を受けなければ厳しいというのが実情だ。

 一方,ウィルコムの2007年3月期の売上高は2475億5900万円。アッカ・ネットワークスに比べて売上規模は大きいが,営業損益は3100万円の赤字だ。赤字額は2006年3月期の202億1200万円から大幅に減ったものの,余裕があるとは言いがたい。ただし,ウィルコムは現行のPHSで全国に16万の基地局を保有している。インフラの構築にかかる負担はアッカ・ネットワークスに比べて圧倒的に低い。

3G事業者を中心とした攻防が水面下で進む

 このほか,商社やメーカーの新規参入も考えられる。しかし,アッカ・ネットワークスを含め,無線インフラの構築経験がない点を不安視する声は多い。「無線インフラの構築には置局設計や最適化に高度なノウハウが必要になる。基地局の設置場所も問題で,めぼしい場所は既存3G事業者に押さえられている。これからオーナー交渉を進めるとなると大変な労力がかかる」(ある基地局メーカー)。

 こうした状況でカギとなるのが3G事業者の動きだ。商社やメーカーなどが新規に参入し,3G事業者が資金面とインフラの構築を支援することは十分に考えられる。総務省も「3分の1未満という免許方針案の範囲内であれば,3G事業者が参入するのは問題ない。望んでいるわけではないが,新規プレーヤーが3G事業者のリソースを借りて参入するのは美しいこと」と歓迎の意向だ。複数の3G事業者が商社やメーカーを巻き込みながら連合体を形成する可能性もある。

 アッカ・ネットワークスは急きょ6月6日,資本構成の変更と経営体制の刷新を発表した(関連記事)。筆頭株主であるNTTコミュニケーションズの出資比率を下げ,社長を交代した。モバイルWiMAXの事業企画会社を6月中に設立する方向で準備に入っているという。

 総務省は6月15日まで免許方針案のパブリック・コメントを募集し,その結果を踏まえて電波監理審議会に諮る。早ければ7月中に免許申請の受け付けを開始する。受け付けが終了する夏ころまで,水面下での攻防が繰り広げられることになる。