プロジェクトを効率的に運用するためには,プロジェクトの規模や開発フェーズに応じた最適な組織作りと,適切な要員計画が必須となる。メンバーのスキルを高めるための教育計画やユーザーに対する研修計画も,忘れてはならない重要な作業だ。

布川 薫/日本IBM

 今回は,プロジェクト計画段階における「組織計画」と「要員計画」,それに,プロジェクト・メンバーに対する「教育計画」とユーザーに対する「研修計画」について解説する。

 組織計画は,プロジェクトを最も効率的に運用できる組織形態を策定するものだ。サブシステム開発やインフラ系の開発といった作業単位ごとにリーダーの権限と責任範囲を明確にし,各開発フェーズに最も適した簡潔な組織構造になっていることが望ましい。

 この組織計画に基づいて,必要なスキルを持った要員を手配するのが要員計画。ただし,必要なスキルを持ったプロジェクト・メンバーが最初から揃うことはまずない。そこで,プロジェクト・メンバーを計画的に教育する必要が出てくる。これが教育計画である。本番稼働にスムーズに移行するためには,ユーザーに対する入念な研修計画も必要になる。いずれも,プロジェクト計画段階では欠かせない作業だ。

プロジェクトの組織形態

 まずは,プロジェクトの組織計画から説明しよう。

 一般に,プロジェクトの組織形態としては「プロジェクト型組織」と「マトリクス組織」(キーワード解説参照)の2つのタイプがある。組織計画では,このうちどのタイプを選択するかを,まず考えなければならない。

 「プロジェクト型組織」は,専任のプロジェクト・マネジャ-,スタッフ,メンバーで構成され,プロジェクトの開始から完了までの一定期間存続する。長期にわたる大規模プロジェクトでは,このプロジェクト型組織を採用することが多い。

 プロジェクト型組織では,プロジェクト・マネジャーは同時にラインの管理職でもあり,プロジェクトに全面的な権限と責任を持つ。権限と責任体制が明確になっているため,迅速な意思決定が可能になるメリットがある。

 図1に,大規模システム開発でのプロジェクト型組織の代表的な例を示す。この図の大きな枠内が,プロジェクト組織そのものを表している。図では,複数人のリーダー,サブリーダーを設定しているが,プロジェクトの規模が小さい時は,プロジェクト・マネジャー自身が開発リーダーになる場合もある。

図1●大規模システム開発での「プロジェクト型組織」の例
図1●大規模システム開発での「プロジェクト型組織」の例
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 一方,「マトリクス組織」は,企業の既存組織に所属するメンバーで構成する。プロジェクト・マネジャーは専任だが,プロジェクト・メンバーは各組織からプロジェクトごとに割り当てる(図2)。この組織形態は保守や小規模な拡張プロジェクト,比較的短期間のプロジェクトで採用されることが多い。

図2●企業組織のメンバーをプロジェクトに割り当てる「マトリクス組織」。短期開発や小規模プロジェクトに向く
図2●企業組織のメンバーをプロジェクトに割り当てる「マトリクス組織」。短期開発や小規模プロジェクトに向く

開発フェーズで組織を変える

 組織計画の立案で注意すべきなのは,開発フェーズごとに最適な組織形態は異なる,という点だ。開発フェーズごとに必要な人数も異なるし,実施する作業も異なるからである。外部設計フェーズが終わって内部設計フェーズに入るとサブシステムの下のコンポーネント開発にチーフを付け,共通部分を管理するスタッフを追加する…といった具合に,その時々のフェーズに応じて適切に組織を再編成しなければならない(図3)。

図3●開発フェーズに応じた組織の流動性の確保。開発フェーズごとに最適な組織形態にする必要がある
図3●開発フェーズに応じた組織の流動性の確保。開発フェーズごとに最適な組織形態にする必要がある

 また,中小規模システムで成功したからといって,その組織形態をそのまま大規模システム開発に適用するのは間違いだ。50人程度のプロジェクトでは,1 人のプロジェクト・マネジャーの下に企画やアプリケーション開発,技術支援,テストなどの部門を置けばよい。しかし,この組織をそのまま大規模プロジェクトに適用して各部門の人数だけを増やすと,部門ごとのセクショナリズムなどの弊害が必ず出てくる。

 大規模な組織では,適切な規模のサブシステムに分割しそれぞれの管理が自己完結するようにする。さらに,品質管理などのプロジェクト全体にかかわる作業には専任のスタッフを割り当てるようにする(図1参照)。全体としては冗長に見えるが,大規模プロジェクトで品質と生産性の低下を防ぐためには,こうした組織形態は必須である。

 プロジェクトの組織計画は,図1に示したような階層構造で記述する。技術支援,アプリケーション開発,機器導入・運用,ハードウエア導入など,プロジェクト・マネジャーが直接コントロールする部門の名称とリーダーの氏名を漏らさず記載しておく。併せて,プロジェクトに関連する組織や人の名前,所在地,連絡先,その他関連情報などを「キー・コンタクト・リスト」として添付する。このリストはプロジェクト・メンバー全員に公開するわけではなく,必要な人が必要に応じて参照する。リストに記入すべき組織や人としては,

(1)ユーザーとの交渉を受け持つ担当者
(2)プロジェクトの報告ラインとしての上位組織,管理組織,管理者
(3)プロジェクトのサポート組織や技術面でのキー・ポジションにいる人
(4)ユーザー企業内の関連組織名,ユーザー側の連絡窓口になる担当者,キーマン
(5)外部委託先の関連組織名,連絡窓口になる担当者,キーマンなどがある。