いきなりタイトルで飛ばしてしまったが,これはお隣台湾の話である。この記事が公開される6月11日は,台湾における2.5GHz帯を使った無線ブロードバンドの免許申請締め切り日。日本では総務省が2.5GHz帯を利用した広帯域移動無線アクセス(無線ブロードバンド)システムの免許方針案を策定し,5月15日に公表(関連記事)。まさにこれから各企業が免許の申請に向けて,動き出すところだ。

 総務省の免許方針案から読み取れるのは,無線ブロードバンドでは新規事業者の参入を優先するということ。既存のNTTドコモやKDDI,ソフトバンクモバイルといった第三世代携帯電話事業者およびそのグループ会社(出資比率などの制限がある)は事実上単独での参入が認めらない。こうした免許方針案に対する事業者のファースト・インプレッションや,総務省担当者へのインタビューなど,本日オープンした特番サイト「モバイルWiMAXが遂に始動! 2.5GHz帯無線ブロードバンド」に掲載するので,そちらを参照していただきたい。

南北それぞれに3社ずつ参入

 台湾では,2.5GHz帯を使った無線ブロードバンドの新市場を,日本より一足早く切り開こうとしている。M-Taiwanという政府プロジェクトを2005年末から進めている。このプロジェクトの目標は,有線を含めたブロードバンドのインフラを構築し,高速な無線ブロードバンドでさまざまなサービスを提供すること--である。このプロジェクトの一環とも言えるのが,2.5GHz帯を使うモバイルWiMAXの導入である。

 無線ブロードバンド用として割り当てている周波数帯は2.5G~2.69GHz。技術方式はWiMAXである。6月11日に申請が締め切られるのは,この周波数帯の中の90MHz幅分。計6社に30MHz幅ずつを割り当てる。30MHzを6社に割り当てるには,単純に180MHzが必要になる計算である。しかし,台湾全土を南北二つに分け,それぞれの地域で3社ずつ事業を認めるため、周波数自体に重複があってもいいのだ。残り100MHz幅は無線ブロードバンド市場の広がりに合わせて2年後に改めて割り当てる計画だ。

 実は台湾でも新規事業者を優先するという事情は日本と変わらない。台湾の南と北にそれぞれ新規事業者用の帯域を用意し,既存3社(中華電信=Chunghwa Telecom,台湾モバイル=旧台湾セルラー,遠伝電信=Fareastone)は申し込めない。

 この2.5GHz帯の免許申請に対して,台湾ではどんな事業者が名乗りを挙げるのだろうか。M-Taiwanプロジェクトを推進している経済部(日本の経済産業省に当たる)工業局行動台湾応用推動計画弁公室の王常瑛(常は王偏)・主任によると,(1)PHS事業者,(2)ケーブルテレビ事業者,(3)機器製造メーカーが既に名乗りを上げているという。

 (1)と(2)は日本でも同じだろう。特徴的なのが(3)のメーカーだ。6月7日時点で,台湾ではテレビのメーカーとしておなじみの大同(URL)が単独で,通信機器メーカーのTECOM(URL)が通信事業者と組んで参入を目指している。ちなみに大同は,NECと共同でモバイルWiMAXのトライアルを実施している(NECのプレスリリース)。

台湾のモバイルWiMAXは産業政策の一環

 メーカーが積極的にかかわるのは,台湾におけるモバイルWiMAX事業が産業振興策そのものだからだ。王主任はそもそも2.5GHz帯をWiMAXで使う理由として,(1)いち早く市場を立ち上げることでWiMAX関連機器の製造で国際的に主導権を握る,(2)台湾に新たな通信事業者の参入を促し競争を進める--を挙げる。

 (1)は無線LAN機器における台湾メーカーの成功をWiMAXでもなぞろうとするもの。無線LAN機器の場合,出荷台数で言えば全世界の無線LAN機器の95%が台湾メーカーによって作られているという。既にGemtek TechnologyやCyberTAN Technologyといった無線LAN機器製造の“ティア1”メーカー(優先的にチップ供給を受け,大手メーカー・ブランドの機器を製造するOEMメーカー)がWiMAX関連機器の製造に乗り出している(関連記事1関連記事2)。

 国際的な接続試験にも台湾メーカーは積極的に参加している。通信事業者やメーカーなどで構成する業界団体「WiMAXフォーラム」は2007年5月にフランスでモバイルWiMAX機器の接続性などを検証する“Plugfest”イベントを開催したが,参加した企業の3分の2が台湾メーカーだったという。2007年10月には台湾でPlugfestを開催。そのころ台湾では既に免許の審査が終了し,事業者が決定してモバイルWiMAXの商用サービスができる状況となっている。

 (2)の競争促進は,台湾の一般消費者に対する通信サービスの充実を促すもの。台湾では第3世代携帯電話のインフラ構築が遅れている。また,日本と同様に第3世代携帯電話事業者によるデータ通信サービスが始まっているが,「一般の消費者には料金が高い」(王主任)のが現実であまり利用が進んでいないという。そこで今後,新たに第3世代携帯電話のインフラを構築していくよりも,一気にモバイルWiMAXの普及を進めるほうが無線ブロードバンド環境の構築には手っ取り早いと考えている。

 現在,M-Taiwanで想定している伝送速度は,2Mビット/秒程度。これは台湾におけるADSLと同等の伝送速度だという。日本のユーザーには物足りないかもしれないが,この伝送速度はあくまでも現時点での数値で,機器の進歩とともにこの速度は上がっていくだろう。

月額約2000円を目指す台湾のモバイルWiMAX

 驚くのはモバイルWiMAXの月額料金。王主任によると月額500NTドル,日本円に直すと月2000円程度の料金を目標として掲げているという(1NTドルを4円として計算)。現在台湾ではADSLの月額料金が800NTドル程度だという。一方で公衆無線LANサービスは約400NTドル。ちょうどこれらの中間がモバイルWiMAXによるデータ通信サービスの月額料金となる。「日本と台湾では,平均個人所得に差があるので,これでも決して安いわけではない」と王主任は言うが,ADSLより安価でしかも無線LANよりも圧倒的に広いエリアをカバーするとなれば,台湾のユーザーにとって非常に魅力的なサービスだろう。

 台湾ではモバイルWiMAXの導入そのものが,行政院(日本の内閣府に当たる)が掲げた目標の一つである。M-Taiwanプロジェクトを統括するのは,日本の経済産業省に当たる経済部で,周波数政策をつかさどるのはNCC(国家通信伝播委員会,米国のFCCに該当)である。二者が歩調を合わせてモバイルWiMAXの導入を強力に推進しているのが今の台湾の状況だ。

 翻って日本はどうだろうか。本日公開の特番サイト「モバイルWiMAXが遂に始動! 2.5GH帯無線ブロードバンド」では,日本における免許の行方や事業者の動向,日本に先行してWiMAXを導入した海外の事例などを積極的に掲載していく。ぜひ参考にしていただきたい。