ブラザー工業は、売り上げの75%、製造比率では80%を海外に依存する極めてグローバルな企業である。SAPを基幹システムとして海外主要工場に導入。日本でテンプレートしたものをロールアウトするという仕組みで、スピードも速いしコストも抑えられている。グローバルな標準化が極めて進んだ企業といえるだろう。このブラザーのCIO(最高情報責任者)として手腕を発揮しているのが小池幸文取締役常務執行役員だ。

 ブラザーのIT(情報技術)部門の本社機能はわずか15人。グローバルのガバナンスのみを担当している。全社のインタフェースとして世界組織を俯瞰(ふかん)する役割だ。同社が今稼働させようとしている次期CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムでは、本社1人、現場10~20人、残りはアウトソーサーに任せている。

 同社は以前、大規模なIT部門を持っていた。小池さんがCIOに任命され、3カ年計画をつくれと言われた時、10年先がとても気になったという。その結果、10年先のあるべき姿を想定し、IT部門の役割を変えるべきだと気づいたのだ。全社ITガバナンスの再構築である。

 小池さんは、IT部門を「情報を活用して主体的にプロセスと人の進化をリードするという部門」と規定。「情報というものが、仕事をするうえで極めて重要なものになりつつあるが、主役は人である。情報のアウトプットは人に依存するから、プロセスを変えるだけでは駄目、それを使う人も変えていくべきだ」と主張する。

 情報部門こそが人の変革をリードできると考え、まず部門の人たちの意識を変えた。そして全社横断的なガバナンス機能を構築する部門として再出発したのだった。

 現場では、パワーユーザーを重視する。保守や運用にかかる費用はパワーユーザーに依存する。彼らに要件を聞かず、プロセスを聞くことで、企業変革のための最適なプロセスづくりをIT部門と現場が一緒に考えていく。

 小池さんは、CIOをChief Information OfficerでなくChief Innovation Officerと呼ぶべきだと主張する。単なる情報技術ではなく、情報を活用して革新していく人。その意識がないとCIOは本来のCIOになり得ないだろう、と語っている。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA