デジタルラジオは,今年4月1日から,9チャンネルの本格的放送が始まった(発進したデジタルラジオの行方「4月に9チャンネルへ増加,番組や編成の充実を図る」参照)。デジタルラジオ推進協会(DRP)が免許人となった実用化試験放送の枠組みの中での放送である。

 本格的放送が始まったとはいえ,デジタルラジオの今後を占うにはいくつかの難題が控えている。2011年7月の地上アナログテレビ放送終了後に利用できる周波数帯や,有効なビジネスモデルの創出についての問題がそれだ。今回はこれらの課題に直接関係する2つの組織である「電波有効利用方策委員会」と「デジタルラジオニュービジネスフォーラム」の動向について整理する。

2011年以降の電波有効利用の枠組みでデジタルラジオも検討

 総務大臣の諮問機関である情報通信審議会の「電波有効利用方策委員会」では,2011年7月のアナログテレビ放送終了によって空く,VHF帯ローバンド1ch~3chの18MHz(90M~108MHz)とVHF帯ハイバンド4ch~12chの52MHz(170M~222MHz)の合計70MHzと,UHF帯53ch~62chの60MHz(710M~770MHz)を合わせた合計130MHzをどのうように有効利用していくかという点について議論してきた。

 その中で,VHF帯は現行のテレビジョン放送用途以外に利用する「放送システム用途」と災害対策として救援用のブロードバンド移動通信に利用する「自営通信システム用途」での利用が,UHF帯は「ITSシステム用途」と携帯電話を中心とした「電気通信用途」に使用することが決定。それぞれアドホックグループにより検討が進められた。なお,UHF帯の空き周波数利用については,アナログ放送終了後に周波数移行作業があるため,1年後の2012年7月からの利用となる。

 デジタルラジオは放送システム用途の中の一つで,マルチメディア放送,FM放送と合わせて3種類の提案がある。VHF/UHF帯跡地利用での提案システムと検討グループの内容を表1にまとめた。

表1●VHF/UHF帯跡地利用提案システムと検討グループ
検討周波数 システム 提案サービス 検討グループ
VHF帯で検討 自営通信システム 基地局-端末間システム 自営通信グループ VHF共用
検討
グループ
端末-端末間システム
画像伝送システム
放送
システム
デジタルラジオ放送 地上デジタル音声放送 放送
グループ
FM放送 超短波放送(アナログ)周波数帯域の拡張コミュニティFM,IBOC方式のFMラジオ
マルチメディア放送 マルチメディア放送で提案されているシステム
1. ISDB-TSB モバイルサーバー型マルチメディアサービス
2. MediaFLO
3.DVB-H準拠方式マルチメディアラジオ
4.移動体向け大容量マルチメディアサービス
UHF帯で検討 ITS関連
システム
ITS ITS
グループ
UHF共用
検討
グループ
電気通信システム TDD(Time Division Duplex:時分割複信) モバイルWiMAX,TD-CDMA MBMS 電気通信グループ
FDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信) 第3世代移動通信システム,高度化システム

デジタルラジオはVHFハイバンドの一部に

 同委員会のVHF/UHF電波有効利用作業班による約1年におよぶ検討の結果,5月14日に開催された第7回電波有効利用方策委員会で,地上アナログ放送終了後に空くVHF/UHF帯の計130MHzに対して「VHF/UHF帯における電波有効利用方策に関する考え方(案)」が示された。内容は以下の通りである(図1)。

  • VHF帯ローバンド1ch~3chの18MHz(90M~108MHz)は現行のテレビジョン以外の「放送システム用」に配置する。

  • VHF帯ハイバンド4ch~12chの52MHz(170M~222MHz)は,170M~202.5MHzの32.5MHzを自営通信システムに割り当て,207.5M~222MHzの14.5MHzを現行のテレビジョン以外の「放送システム用」に配置する。

  • UHF帯の710MHz~770MHzについては,715M~725MHzの10MHzをITS関連システムに配置し,730M~770MHzの40MHzを携帯電話を含む電気通信システムに配置する。

  • 710MHz以下で使用している地上デジタルテレビジョン放送との干渉と,ITSと電気通信システムとの干渉を考慮し,それぞれにおおむね5MHz幅のガードバンドを置くことが適当である。

図1●VHF/UHF帯の周波数配置案
図1●VHF/UHF帯の周波数配置案
「総務省情報通信審議会 第7回電波有効利用方策委員会「VHF/UHF帯における電波有効利用方策に関する考え方(案)」の図1,図2を参考に作成
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 当初VHF帯のローバンドは,アンテナの大型化や外国波の混信などの課題があるとしていた。しかし,FM放送でローバンドの利用を希望する事業者があることから,「放送システム用途」で18MHzを使用することになった。また,放送システムで使用する残りの17MHzについては,VHFハイバンドの4ch~12chの52MHzを自営通信と放送システムで分けて利用することになった。

 VHFハイバンドでは,放送システムと自営通信の双方からVHFハイバンドの高い周波数帯を利用したいという要望があったことに加え,放送システムと自営通信のガードバンドをどう配置するかについて議論が難航した。今回の合意では,放送システムが高い周波数帯を利用することに決定した。その理由について,電波有効利用方策委員会は『周波数が高い方が小さい端末を実現することが容易であることから,経済効果や両システムの端末機の大きさや普及数,ユーザーの利便性を考慮して,より小型化に対する要求が大きい携帯電話のようなコンシューマ機器を想定する「放送システム」を帯域の上の方に配置することが適当である』(「VHF/UHF帯における電波有効利用方策に関する考え方(案)」)としている。

 また,共用条件については『「自営通信」と「放送」の境界領域については,ガードバンドとして5MHz幅を想定し,「自営通信」からの干渉電力が「自営通信」側の境界から5MHz以上離れた周波数において,また,「放送」からの干渉電力が「放送」側の境界から5MHz以上離れた周波数において,それぞれ環境雑音レベル程度にするとの条件で,それぞれ境界から最大2.5MHz幅まで使用可能とすることにより周波数を有効活用することが適当である』(同)。さらに「隣接周波数帯における既存の電波利用に対しては,現在,高出力の地上アナログテレビジョン放送が運用されていることから,これより低出力の電波利用からの影響を考慮する必要はないものと考えられる」(同)とした。

使えなくなる7chの期限付き利用継続を要請

 この電波利用案は,デジタルラジオに大きな影響をおよぼす。既存の実用化試験放送が使っているVHF 7chの帯域が自営通信に割り当てられているため,2011年以降7chを使ったデジタルラジオ放送ができなくなるからだ。そこでデジタルラジオの検討グループは,すでに販売されている受信機の保護などを目的として,7chの利用について移行期間を定めて放送用帯域として継続利用できるように要請している。この意見は,5月14日に行われた「第7回 電波有効利用方策委員会」で,VHF/UHF帯電波有効利用作業班の「中間報告書(その3)」に放送グループからの回答として盛り込まれた。

 総務省は,今回まとめた「VHF/UHF帯における電波有効利用方策に関する考え方(案)」について,5月中旬~6月中旬の1カ月間に,同案に対するパブリックコメントを募集する。その後,このパブリックコメントを整理し,6月27日に開催予定の情報通信審議会 情報通信技術分科会において,一部答申を出す予定である。