ひんやりとした寒さが残る3月の終わり,東京・秋葉原の「マルチメディアAkiba」には開店を待つ長い行列ができていた。お目当ては13年振りの新規参入携帯電話事業者となったイー・モバイル(関連記事)が発売する「EM・ONE」(エムワン)である。事前予約1万台という同社の予想をゆうに超え,発売日当日には予約分も含めて2万台弱を販売した(写真1関連記事)。

写真1●イー・モバイルの「EM・ONE」登場でスマートフォン市場は活気付く
写真1●イー・モバイルの「EM・ONE」登場でスマートフォン市場は活気付く
3月31日の端末発売当日に,予約を含め2万台弱を販売した。EM・ONEはWindows Mobile搭載でHSDPAに対応する。

 EM・ONEは携帯電話機とパソコンの中間に位置する「スマートフォン」と呼ばれる端末である。国内ではあまり耳慣れないジャンルだが,要は通信/通話機能を内蔵したPDA(携帯情報端末)と考えればよい。

 スマートフォンは2005年12月にウィルコムが発売した「W-ZERO3」(関連記事)が空前のヒット。2006年には,NTTドコモとソフトバンクモバイルが相次いでスマートフォン市場に参入した。

 そして2007年,EM・ONEは携帯電話事業者の端末ながら,通話機能を持たないデータ通信専用端末として登場した。しかも定額制の料金プランと最大でメガ・クラスの通信速度という,登場当時の固定ブロードバンドに近い通信サービスとセットになっている(関連記事)。

 かつて日本のPDA市場は,ソニーの撤退など大きく落ち込んだ時期がある(2005年公開の関連記事)。それから約2年を経て,PDAは通信機能を携えたスマートフォンに名を変えて復活しつつある。

携帯電話事業者の思惑と合致

 復活の影には,強力にして最大の支援者となった携帯電話/PHS事業者の存在がある。スマートフォンを数ある製品ラインアップの一つに加えるようになったのだ。

 市場が頭打ちになりつつある中で(参考サイト),携帯電話事業者がスマートフォンに目を向けたのは,法人市場の開拓という狙いがあるから。法人向けに「hTc Z」(関連記事)など3種類のスマートフォンを展開するNTTドコモは「もはや(個人ユーザー向けの)900や700シリーズが爆発的に普及することはない。重要性を増す法人市場にとって普通の端末では競争に負ける」(プロダクト部の田村穂積第四商品企画担当部長)という。

 2006年10月からスマートフォンの展開を始めたソフトバンクモバイルも,パソコンになじみが深いビジネスパーソンをターゲットに据えている。さらに,同社はノキア製の「X01NK」(関連記事)を4月26日に発売した。個人向けには展開せず,法人だけに販売する。

 携帯電話事業者はスマートフォンを利用しやすい料金の整備も進めている。以前から提供していたパケット通信料の定額メニューに加えて,ソフトバンクモバイルは3月1日から「パケット定額Biz」(関連記事),NTTドコモは4月1日から「Biz・ホーダイ」(関連記事)という名称で,スマートフォン搭載フルブラウザ経由のパケット通信を月額5985円の定額で利用できるサービスを開始。ユーザーの料金に対するの不安を取り除くことで,スマートフォンの市場拡大を援護する。

勢いに乗るWindows Mobile搭載機

 2007年5月末現在,携帯電話/PHS事業者が国内で販売するスマートフォンは全部で8機種ある(図1)。OS別に見ると,一般の携帯電話向けOSでは英シンビアンの「Symbian OS」が約60%のシェアを持つが,スマートフォンに限ると米マイクロソフトのWindows Mobileの採用例が急増している。

図1●携帯電話/PHS事業者が販売するスマートフォン
図1●携帯電話/PHS事業者が販売するスマートフォン
6月現在,スマートフォンを販売している携帯電話/PHS事業者はNTTドコモ,イー・モバイル,ウィルコム,ソフトバンクモバイルの4社。Windows Mobile搭載端末が5機種と最も多い。7月以降,さらにWindows Mobile搭載端末は増える。  [画像のクリックで拡大表示]

 現行のWindows Mobile 5.0を搭載したスマートフォンは,ウィルコムのシャープ製端末であるW-ZERO3と「W-ZERO3[es]」,台湾のHigh Tech Computer(HTC)が製造したNTTドコモの「hTc Z」,同じくHTC製のソフトバンクモバイルの「X01HT」,そして新規参入のイー・モバイルのシャープ製端末,EM・ONEの計5機種が発売されている。

 さらに今年は,新バージョンの「Windows Mobile 6」が登場する。2月にモバイル関連の展示会「3GSM」(関連記事)でお披露目され,日本でも6月6日にマイクロソフトがWindows Mobile 6の発表会を開催した(関連記事)。ソフトバンクモバイルはそれに先立つ5月22日,夏商戦向け端末発表会でWindows Mobile 6搭載機を発表(関連記事)。東芝製の「X01T」を7月下旬,台湾HTC製の「X02HT」を8月中旬以降に発売する。ウィルコムも7月中旬,Windows Mobile 6を搭載した「Advanced/W-ZERO3[es]」(型番はWS011SH)を発売する予定だ(関連記事)。

 マイクロソフトの梅田成二モバイル&エンベデッドデバイス本部長は,「(Windows Mobile搭載機種は)年内に10機種まで拡大する」としており,勢いはしばらく続きそうだ。

 第2回からはWindows Mobile搭載のスマートフォンである,イー・モバイルのEM・ONE,NTTドコモのhTc Z,ウィルコムのW-ZERO3[es],ソフトバンクモバイルのX01HTの4機種をレビューする。いずれの機種もOSとしてWindows Mobile 5.0を搭載する点は同じだが,搭載した通信機能や端末のスペックによって使い勝手は大きく変わる。通信機能と端末の使い勝手などをつぶさに調べていくと,自分に合った端末が見えてくる。

<参考URL>
NTTドコモの法人向けWebサイト
KDDI(携帯電話サービス)の法人向けWebサイト
ソフトバンクモバイルの法人向けWebサイト
ウィルコムの法人向けWebサイト
電気通信事業者協会(TCA)の携帯電話/PHS契約数サイト

第1回 高速通信を武器に動き出すスマートフォン
第2回 Windows Mobile搭載機,HSDPA採用の2機種に軍配
第3回 通信速度と異なる体感,PDF閲覧は機種ごとに差
第4回 解像度と輝度ならEM・ONE,HTC製は片手操作でも快適
第5回 最新モバイル通信カードの速度測定,イー・モバイルは2メガ超も