米国の情報アクセシビリティ基準の改訂原案が今年9月にも完成する見通しだ。現在、米国連邦政府の諮問機関であるTEITAC(Telecommunications and Electronic and Information Technology Advisory Committee)が原案を作成している。TEITACは、米国だけでなくEU、カナダ、オーストラリア、日本からも諮問委員を招き、国際的な整合性のある基準作りを目指している。

 5月29日に東洋大学(東京・白山)で開催された情報通信政策フォーラム(ICPF)の主催セミナーで、TEITACのメンバーでもある山田肇・東洋大学経済学部教授が、「情報アクセシビリティをビジネスチャンスに」と題した講演を行った。今回はその中から山田教授が米国の動向について語った部分を中心にレポートする。

2007年9月に原案が完成、2008年秋にも公布予定

 2001年6月以降、米国ではリハビリテーション法508条により、連邦政府の調達する情報機器、システムについては情報アクセシビリティ準拠が要件となっている。機器やシステムを納入後、職員や(住民向けサービスの場合)一般の障害者が問題を見出したときは訴えることができるという厳しい規則だ。

 今回の改訂は508条の技術基準を見直そうというもの。きっかけの一つはiPodの出現だったという。「今回の改訂は2001年以降の技術進歩を取り入れたいというのが最大の理由。もう一つは、米国独自の基準ではなく、国際的な整合性を求めたいということにあった」と山田教授は今回の改訂作業開始の背景を解説する。米国の関係者にとって一番ショッキングだったのはiPodの登場と爆発的普及だったという。「視覚障害者にとって音楽は大切なエンタテインメント。ところが、従来のCDプレーヤーと比べて、iPodは(視覚障害者にとって)非常に操作しにくい。皆さんも目をつむってiPodを操作してみればよく分かると思う」(山田教授)。

 情報アクセシビリティの基準改訂は、TEITACが2007年9月までに原案完成予定となっている。その後約1年間で連邦政府内の各官庁が原案が利用可能であるかを確認。最終案は諮問委員会であるTEITACはなく政府の責任で作成し、2008年秋に基準を公布する(施行はさらに先になる可能性が高い)。

■編集部注
原案の公開予定はその後延期されました。2008年4月に公開予定で作業が進んでいます。 [2008/02/26 11:00

 今年5月の会議で改定原案の姿が見えてきた。概要は表1の通り。

表1 改訂原案の概要(2007年5月時点)

  1. Overall Functional Performance Criteria
  2. Provisions for Hardware Aspects of Products
  3. Software & General Behavior Provisions
  4. Additional Provisions for Audio-Visual Content or Players/Displays
  5. Additional Provisions for Real-time Voice Conversation Functionality (previously telecom now including VoIP etc.)
  6. Electronic Content Provisions (for products, training, or E&IT services)
  7. Information, Documentation and Support
  8. Product Development Process (255 only)

 特に「1.Overall Functional Performance Criteria」が今回の改訂のポイントだ。「これまでの基準はビデオ/マルチメディア機器、Web、ソフトウエア、パソコンなど製品分野別に基準を設けていたがこれを改め、どんな製品でも適合するような機能的な性能基準を作る。こうすれば、突然iPodのようなまったく新しい製品やサービスが現れても対応できる(注)」(山田教授)。

(注)リハビリテーション法508条はあくまでも政府(および政府の補助金を受けて提供する州政府のサービス)に適用されるものであり、iPodのような製品が政府調達に参加しないなら、アクセシビリティ基準を満たす必要はない。

 また、「7.Information, Documentation and Support」では“Web上の説明書”についてもアクセシビリティを求める。「最近、製品にはごく薄い説明書を添付するだけで、詳しい取扱説明書はWebからダウンロードさせるケースが増えている。そうした場合、Web上にある説明書にもアクセシビリティ基準を適用する」と山田教授は説明した。

 そのほか。視覚や聴覚などの障害対応に加えて、従来の基準では対象となっていなかった認知障害に対応すること、各規定ごとに関連する国際基準がどこにあるかを明示することなどが原案に盛り込まれる見通しだと言う。

様々な方法の組み合わせによる認証制度を提言

 5月のTEITAC会合では、山田教授は規定完成後の認証制度について私案を発表した。山田教授は「認証制度の策定では、しばしば自己適合宣言か第三者認証かの、二者択一論となる((従来は自己適合宣言による認証だった)。だが、重要なのは情報アクセシビリティの思想を広めることであり、二者択一にこだわることは無意味だ。さまざまな方法をた多様に組み合わせた方法が望ましい」としたうえで、表2のような多様な方法を同時に利用すべきだと提案した。

表2 認証は多様な方法を同時に利用すべき

  • 自己適合宣言
  • 自己適合宣言に第三者がチャレンジできる制度
  • 第三者認証
  • 優秀な情報通信機器・サービスを選定して表彰
  • 優秀な機器・サービスを選定し、それを調達の基準にする(トップランナー方式)
  • マネジメント標準(品質、環境)の考え方を入れる(情報アクセシビリティについてポリシーをもってそれを実践しているかを審査)
  • 企業トップのコミットメントを求め、それを公表する
※ 山田教授による資料を編集部で一部加工

 この提案がそのまま採用されるかは分からないが、事前にEU、カナダの委員と調整したうえで発表したものであり、米国の出席者からも、評価・支持する意見が多数出たという。