大和総研企業調査第三部シニアアナリスト 中村 哲也 氏 中村 哲也 氏

大和総研企業調査第三部シニアアナリスト
伊藤忠商事を経て、2000年に大和総研に入社。現在、ソフトウエアと情報サービスセクターで主に中・小型株式の調査を担当。

 上場した情報サービス会社の多くが、これから半年以内に06年事業年度の会計監査を受ける。軽度の会計リスクを抱える企業は、会計基準が厳格化される今回の監査を、更生機会として有効活用してほしい。一方で、重度の会計リスク(スルー取引などの不正を繰り返してきた事実)を持つ企業であれば、担当監査法人はこれを毅然と炙り出すべく監査に臨んでもらいたい。投資家が安心してリスクマネーを預けられる、アナリストは事業リスクだけに注意を払えばよい、これが株式市場の本来あるべき姿ではないか。

 残念ながら、いくら会計基準が厳格化されても、会計不祥事がゼロになることはないだろう。網の目をくぐり抜けようとする経営者を撲滅することは難しい。これはライブドアショックに翻弄された過去1年が示唆している。灰色の会計処理の是非は最終的には法廷に委ねられ、それでもなお議論の余地を残すことを我々は知った。投資家とアナリストが、灰色の会計処理の白黒を独断で判断することは難しく、投資家は自己防衛策に努める以外に道はない。

 自己防衛策として、まず「連結子会社が不必要に多い会社」には注意を払うべきだ。不正会計に連結子会社を悪用するケースは多い。原価明細書が連結では不要、利益や損失のオフバランス(飛ばし)が可能、などが背景にある。例えば、子会社を通じて仕入れた棚卸資産の中で簿価の付け替えを行い、営業利益の水増しを行うことは容易に実現可能である。飛ばし会社を連結した途端に債務超過に陥るケースも粉飾の可能性があろう。

 次に「バランスシートを犠牲にして利益成長を続ける会社」にも用心が必要である。このような企業は「営業利益に営業キャッシュフローが追い付いていない状態が恒常化している」「バランスシートのどこか(売掛金、仕掛品、無形固定資産、のれん・営業権など)がバランスを欠いて膨らんでいる」などの特徴がある。

 これらの企業は不正会計を行っていないまでも、会計基準厳格化の中で、過去に計上した“利益”と実際に回収できた“キャッシュフロー”の食い違いを埋める必要が生じる。「突じょ巨額の特別損失を計上する」「監査法人との調整に時間を要している」企業はこの可能性があるとみるべきだ。

 最後に「ファイナンスの多い会社」にも注意を要する。ソフトウエア業界は基本的には労働集約産業であるため、大型設備投資と縁遠く、キャッシュカウ(いわゆる“金のなる木”)な会社が多い。近年は、データセンターを活用したASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)モデルが台頭したとはいえ、営業キャッシュフローの中で設備投資を賄えるケースがほとんどだろう。M&A投資やソフト開発投資などを目的にファイナンスを行い、結果として価値に見合わない投資を実行している例が散見される。

 投資家やアナリストは、上場企業が開示する財務諸表が“正しい”という前提で企業分析を行っている。その大前提が“嘘だった”となれば、発行体のモラルの低さにあきれるばかりか、人間不信に陥りたくもなる。限られた一部の情報サービス会社が引き起こす会計不祥事が業界全体のイメージ低下へつながり、多くの投資家に当セクターを敬遠させてしまうのは憂慮すべき事態だろう。