ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンのプリンシパル 小塚 裕史 氏 小塚 裕史 氏

ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンのプリンシパル
野村総合研究所、ジェミニ・コンサルティングを経て現職。金融、自動車、情報・通信などの企業に対する事業戦略立案、企業変革などのコンサルを手がける。

 景気回復と業績向上に後押しされ、ITに対するユーザー企業の投資意欲が旺盛になってきている。しかしながら、どのような順番でどのくらいの規模の投資を行うかに悩む企業は多い。異なる部門間の要求を比較して優先順位を付けるのは、組織間力学の問題もあり困難な作業となる。

 最終的な意思決定は、CIO(最高情報責任者)が全社最適の視点で部門横断的に必要な投資を見極めることになる。ただしCIOといえども、すべてに目が行き届くわけはない。CIO機能を十分に発揮するためには、必要な情報を収集・分析する“参謀”が必要となる。事業規模が大きくなるほど、この参謀の役割は重要になる。

 こうした参謀には、現場感覚で業務とITの両面の現状や課題を把握しておいてもらいたい。本来は、ユーザー部門がITの効用や活用方法を深く理解していることが望ましい。だがユーザー部門は日常業務に従事しており、「業務でITをどのように活用するか」といった問題意識を日ごろから持っていることは少ない。

 仮に考えていたとしても、組織横断的に問題点を把握せず、部門の利益代表になりがちである。またIT部門も、現行システムの改修・運用が主な業務だったりすると、経営の観点からITを理解して問題点を指摘することは難しい。

 そして、事業拡張に伴って現行システムを抜本的に刷新しなければならないような場に直面すると、「社内に人材がいない」ことに気付いてあわてる企業が多い。CIOの重要性でさえ認識していない企業もあり、参謀の必要性への認識はさらに薄い。

 参謀を一朝一夕に作り上げるのは難しく、長期的な視点で育成していくことが、的確なIT戦略を立案し実現していくためには大切である。実際にこういった人材がいる企業は、ITをうまく経営に活用できている。どの企業も初めて基幹系システムを導入した当時は、業務・ITの両方を理解した人材を育成したと思う。しかし、事業拡大や情報システムの追加開発が進む中、その全体を理解する後継者を育てられていないという企業が多い。

 参謀を育成するためには、将来を担うエースを抜擢し、計画的に部署間を異動させて学ばせることだ。この取り組みに対しては、CIOや人事担当役員がコミットすることが前提である。せっかくの取り組みも、「現場が忙しい」などの理由で引き戻されたりすると、元の木阿弥になる。

 人材不足を補うために、ユーザー企業がITベンダーに支援を依頼することも考えられる。同業他社や類似案件での知見が期待できるからだ。ITベンダーとしても、ユーザー企業と長期のパートナーシップを築くチャンスであり、参謀の代替ができるレベルの人材をそろえておきたい。

 ITベンダーが経営課題を理解して業務分析を行うことにより、ユーザー企業にとって最適なIT基盤を構築でき、大きな価値を提供できる。システム開発費用・工程の見積もりも正確になり、開発工程での後戻りがなくなる。

 ただユーザー企業としては、ITベンダーに任せきりではダメで、将来にわたってITをどのように活用していきたいかをしっかりと検討することが重要である。もちろん、それを実践する参謀を育成する手間も惜しんではならない。