システム開発の成果物であるプログラムには、著作権が発生する。著作権法上は、システムを開発したソリューションプロバイダが、著作者として著作権を持つのが原則だ。だがユーザー企業は、著作権の自社への帰属を主張することが少なくない。システム開発契約では、著作権の帰属についての合意と契約が不可欠になる。

 システム開発においては、開発したプログラムの著作権を、発注者であるユーザー企業が持つべきか、実際に開発を行ったソリューションプロバイダが持つべきかで争いが発生することがある。

 システムを開発したソリューションプロバイダの側にすれば、プログラムコードを利用して、他のユーザー企業のシステム開発を迅速かつ効率的に行いたいという思惑がある。一方発注者であるユーザー企業にすれば、自分たちがお金を出して開発したプログラムを競合企業に使ってほしくないし、プログラムを利用されれば自社のノウハウが流出すると危惧して、著作権を自分が持ちたいとする企業も多い。

 システムをユーザー企業が自社開発する場合は、著作権帰属の問題は、開発に携わる従業員との雇用契約、就業規則その他の社内規定で規定されている場合が多い。しかし、ソリューションプロバイダにシステム開発を委託する場合に、著作権帰属についてのトラブルが発生することがあるのだ。

 ユーザー企業がシステム開発を外部に委託する方法には、(1)人材派遣を受けた開発、(2)開発委任による委託、(2)開発請負による委託―の3種類の方法がある。人材派遣を受ける開発は、法的には自社開発であるから、ユーザー企業と派遣会社の間での著作権の問題は発生しない。

 システム開発で発生する著作権を扱う法律は、民法に対する特別立法である著作権法だ。そして著作権法の原則は、「著作者が著作権を有する」と規定している(著作権法第14条および同法第15条第2項)。つまり、著作物の創出者が、その創作物に対する著作権者であると推定しているのである。

システムの著作権は原則として開発行為者

 この規定を、委任契約や請負契約でシステムを開発する場合に適用するとどうなるだろうか。委任契約と請負契約は、プログラムの完成義務を負う(請負)か負わないか(委任)の違いがあるが、著作権帰属問題については、両者には同じ解釈が当てはまる。

 まず、開発受任者は、システム開発の受託を主たる業務とする法人(株式会社)である。従って、同法人が開発したシステム上の著作権は法人が取得する。システム開発委託契約の下で開発されたシステムの著作権は原則として、開発行為者(=著作行為者)、すなわちシステム開発を受託したソリューションプロバイダということになる。

 この点に関しては、開発を委託するユーザー企業からは強い反論がある。開発するシステムの発案や仕様の作成(要件定義を含む)もユーザー企業が行い、開発費も自社が支払っているのだから、開発したシステムの著作権は開発委託者であるユーザー企業に帰属すべきという根強い主張が存在するのだ。大型システムの開発になると、数十億円、数百億円に上ることもある。これだけの投資を行いながら、成果物の著作権は取得できず、単に使用権の取得というだけでは納得がいかないだろう。だが著作権法第14条が著作権者を推定する基準は、誰が開発資金を支出したかではなく、誰が著作行為を行ったかなのである。

 ただし実際には、契約によって著作権の帰属を変更することができる。著作権法第14条の規定は任意規定であるため、開発したシステムの著作権者を誰にするかに関して、関係当事者が、推定された者を著作権者としない合意をすれば、その合意が著作権法第14条に優先する効力を持つのだ。著作権者をシステム開発会社から、開発資金を支出したユーザー企業側に、合法的に変更することができるのである。

 筆者は昨年、ある有力銀行の顧問弁護士として、ある大手システム開発会社とのシステム開発契約(請負形式)交渉を担当した。この契約では、著作権帰属条項が大きな争点になった。システム開発会社が著作権法の原則による著作権取得を主張し、銀行側は、開発システム上の著作権は銀行に帰属する旨の契約を主張したのだ。交渉の結果、銀行の主張が通り、委託者である銀行に著作権が帰属する旨の契約条項を追加した。

 この契約でシステム開発会社は、著作権を直接ユーザー企業に帰属させるのではなく、ひとまずシステム開発会社に帰属させ、その後著作権の移転手続きを実施したいと主張した。自社の実績を公にしたいとの思惑からだ。しかし、著作権移転のための登録や著作物(プログラム)預託のコストと時間がかかるのを避けるため、ユーザー側に直接帰属させることにした。その開発会社がそのシステムを開発した実績は、著作権の移転という作業を行わなくても明らかだからだ。

 この事例のように、ユーザー企業が著作権を持つ契約は多い。ソリューションプロバイダの側にすれば、プログラムを他のユーザーに流用できないことになるが、開発で経験した知識やノウハウを使って、同様のシステムを独自に開発することはできる。プログラムのコードそのものが使えないことは、それほど大きな痛手ではない。

 著作権の帰属規定は契約で変更できるということを理解しておけば、単に著作権をどちらが持つかだけに限らず、ユーザーにとって重要な一部のプログラムに限定してユーザー企業側に著作権を帰属させるなど、発注者側とユーザー企業側で、お互いに納得のできる様々な手法を考案できるだろう。

図●契約によって、プログラムの著作権をユーザー企業が持つことにする場合が多い
図●契約によって、プログラムの著作権をユーザー企業が持つことにする場合が多い

 著作権処理の際には、著作者に発生する著作者人格権の処理も問題になる。著作権と異なり、この人格権は、ほかに移転することも、自ら放棄することもできない。そして人格権は、著作物の同一性保持の権利、すなわちプログラムの無断改変を禁止する権利が含まれるので、システム開発では大きな問題となる。この難点を解決するため、筆者は日本IBM時代に、「著作者人格権は主張しない」という規定を契約書に盛り込むことを提案した。現在、IT業界の契約の多くにこの条項が使用されている。

高石 義一氏 高石法律事務所 弁護士
元・日本IBMの法務・知的所有権担当の常務取締役。1993年に高石法律事務所を設立し、国内外のIT関連の開発、SIビジネスなどに関する法律問題の処理に携わっている。